「今しかできんことがある。キーちゃんはそれを知ってた」
「今しか…?」
「甲子園は晴れ舞台や。最後の夏が終われば、もう2度と、やって来ん。せやから、その舞台に立ちたいと思ってた。立って、戦って、明日に行くために」
甲子園。
夏。
どうしてその舞台に憧れてたのか、気になって考えたことがある。
アイツは教えてくれなかったから。
海沿いを走って、球場に向かっている時でさえ。
「お前は聞いたんか?千冬から直接」
「いいや」
悪びれもなく、そう言う。
どこか清々しくもあった。
不思議と、声のトーンは明るくて。
「でも、キーちゃんを見てたら、なんとなく。いつだって全力やったし」
「まあ、な」
わかるような気もする。
いつもそうだった。
雨が降ろうが、どれだけ、風が強かろうが。
「せやから、あんたも頑張れ」
「…」
難しく考える必要はないのかもしれない。
本当は、最初から分かりきってるんだ。
あの日から、ずっと。
いつかまた目が覚めて、一緒にキャッチボールをする。
一緒に外の世界に飛び出して、同じ空の下で歩けたら——
何度も夢を見てた。
目が覚めることを、期待してた。
だけど大事なことは、本当は…
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