「夢って言ったって、千冬は、もう…」
「さっきの世界は、キーちゃんの夢の中の世界でもある」
「…はぁ!?どういうことや??」
「もしあの日事故に遭わんかったら、海に溺れることがなかったら、今頃ここに、キーちゃんはおらん」
「…そんなん言わんでもわかっとる」
「世界はそうやって成り立っとんや。過去と未来の分岐点が、互いに交錯し」
「…過去と、…未来?」
「世の中に起こる出来事は、一つだけやない。常に色々なことが起こり、波の流れのように揺れ動いとる。“時間”は、限られた方向にしか進まんのやない。前後左右、そのどの方角にも動き続けとる。…せやから、「運命」なんてものは存在せんのんや。この世界の、どこにも」
運命がどうとか、難しいからわかんねーよ。
あの日がなかったら
あの事故が起こらなければ
そんなことを考えたって、あの日の出来事が変わるわけじゃない。
違うか?
「…そうやな。けど、まだ“未来”は変えることができる。これから先どんなことが起きるとしても、明日が来る前の、——今なら」
「未来なんてどうでもええ…」
「まだ“間に合う”って言うとんや」
「間に合う…?」
「まだ生まれていない未来。夏の季節の向こうに、今からでも行ける」
「…で?何が言いたいんや?そんなところに行ったってしょうがないやろ?…それともなんや?千冬がおるって言うんか?」
「そうや」
「…冗談はやめてくれ。千冬はここにおる。…未来なんて…、あり得ん…」
「キャッチボールするって、考えとったんやろ?——今日」
「そりゃっ…!」
そうだ。
誘おうと思ってた。
学校が終わったあと、無理言ってでも。
…でも、目の前にいない。
目の前にいた彼女は、違う世界の「千冬」なんだろ…?
…よくわかってねーけど
「確かにそうや。けど、繋がっとるんや。この世界と、さっきの世界は」
繋が…ってる?
でもさっきお前は、“ここにはいない”って…
「ここにはおらん。せやけど、それはあくまで一つの意味に過ぎん。「時間」は全部繋がっとる。キーちゃんはこの世界に1人しかおらんが、かと言って“孤立”しとるわけやない。…せやから、「未来」はまだ決まっとらんのや。——明日、雨が降るかどうかが」
「…どういう」
「私があんたを連れて行ったのは、時間の「壁」の向こう側や。未来では、ベッケンシュタイン境界、——通称“ゲート”と呼ばれとる。現在と現在の間にある、次元の狭間や」
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