「今日からバシバシいくで!」
俺たちは皆ポカンとしてた。
部室に掲げられた1枚の横断幕。
でかでかと書き出された文字。
野球部なら、その「文字」は目を疑うほどにインパクト大だった。
高校野球に携わる人間なら、一度は考えたことがある言葉。
それは、掲げるべき“目標”でもあった。
真面目に頑張ろうと思うなら、尚更。
『目指せ 甲子園』
だが、それがいかに場違いな「文字」であるかを、全員が理解してた。
昔は考えてさ。
甲子園に行ける高校に入って、いつか甲子園に行ってやるんだって。
この前女と話したように、千冬の代わりに、あの舞台に立とうと思ってた。
でも今は違う。
なんのために野球部を立ち上げたと思ってる?
なんで、皆と楽しんでるかわかるか?
「甲子園」なんて行けるわけないじゃないか。
目指せるはずもないし、目指そうとも思ってない。
それなのに女は、当たり前のように「甲子園」という言葉を使う。
そりゃ目指せるもんなら目指したい。
将来的には公式戦にだって出たいし、どうせやるなら、1勝や2勝はしたいだろう。
だけど「甲子園」となると話が変わる。
まともな野球経験者がいないこの部じゃ、どんな奇跡が起こったってそこに辿り着くことはできないだろう。
まぐれじゃ勝ち進めないんだ。
練習量も、人数も、何もかも違うんだから。
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