カンカンカンカン…
雲ひとつない空の下で、遮断機のバーが降りる。
赤いランプと、揺れる線路。
ジリジリと立ち上がるアスファルトの靄の中心を、電信柱の灰色が透けていく。
“もう一度あの世界に戻る”
女は俺にそう説明した後、トンネルの向こう側へと行こうと言った。
花火を見た翌日、丘の坂道を下って、橋の向こうにある『ある施設』を目指した。
「大学に…?」
「うん。あんたに見てもらいたい資料があってな」
資料?
一体なんのことだと聞くと、未来に関する研究資料が、神戸学院大学の研究室に保管されているそうだった。
でも確か、神戸学院大学って…
「千冬の父親が、確か」
直接会ったことが何度かある。
会ったってだけで話をしたことはない。
メガネをかけて、無精髭を生やしてた。
無口な印象で、千冬とは似ても似つかない見た目をしていた。
白衣を着たその姿は、見たまんまだ。
博士とか“教授”って感じの、インテリ具合が。
「おじさんは今、アメリカにおる」
「おじさんのこと知っとんのか?」
「当たり前や」
俺たちは自転車に乗って、ひたすら高松線を走った。
道路の補修工事が、筋向いの通りで行われている。
犬のマスコットキャラクターが目立つ、レンタカー屋。
駐車場の狭いすき家。
新湊川が横断する、1丁目の景色。
「じっとしといてくれん?」
「んー?」
「スマホいじんな。くすぐったいやろ」
そういえば、昔行ったことがあったな。
千冬のやつ、ああ見えてロマンティックなところがあるんだ。
大学にある展望台デッキに登って、星を見てた。
望遠鏡を覗き込み、木星だか金星だか、よくわからないことばかり。
「どうやって行くんや?」
「なにが?」
「…せやから」
千冬のいる世界に行く。
簡単にそう言うけど、方法は?
また電車に乗るのか?
また、ジャンプするとか言い出す?
目を瞑って、「せーの」で。
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