海岸線がしきりに鳴っている。
防波堤にぶつかる波が、高くなったり、低くなったり。
空に浮かぶ星は、広大な宇宙を旅するように、銀河帯の帯の中をなでらかに漂流していた。
神戸市内の喧騒は遠く離れていくようで、確かな色遣いと質感を、夜の向こうに広げている。
遊覧船が汽笛を吹く。
それは鯨の鳴き声のようにも聞こえた。
遠く、青白く流れている光。
しらしらと伸び上がった、星のしずく。
夜空には泡のような粒状の膜が、大きく膨らんだり、萎んだりしていた。
月は、暗闇の淵を漂っていた。
波と波の切れ間に浮かぶ月明かりが、さざめく水面の上で白い尾を伸ばし、海面スレスレを泳いでいた。
大きく息を吸っている海。
車の流れが止まらない街。
街の明かりは隙間もないほどに鮮やかに色づいている。
ポートタワーも、センタービルの屋上も。
青く浅くうつろぐような空気の静けさが、そっと耳のそばを掠めていく。
森の奥からかけてくる川のせせらぎが、チョロチョロと鈴の音を揺らすように、涼しく響き渡り。
千冬が今どこにいるか。
今、何をしているか。
心の隅に掠めていく感情は、どうしようもないくらいに覚束なかった。
戻れないのはわかってる。
何も変えられないって、わかってる。
それでも女は言うんだ。
“あんた次第”だって。
「一緒に花火を見る約束をしとった」
「誰と?」
「キーちゃんと」
眩しいくらいの星空の下で、空に向かって伸びていく光が見えた。
ヒュルルル…という音を出しながら、暗闇の中心へとかけていく。
9月10日。
そうだ、今日は花火大会だ。
ポートアイランドの埠頭で上がる6000発の花火。
昔はよく行ってた。
がま口の小銭入れを持って、大きなパンフレットを手に持ち。
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