雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第363話

公開日時: 2023年10月22日(日) 19:00
文字数:730


 廊下の窓に差し込む外の日差しも、『1年B組』と書かれたドアの上の標識も、何もかも新しい。


 夏が終わろうとしてるのに、時間が止まったように風の流れは穏やかだった。


 当たり前のように接してくるクラスメイトの顔が、奇妙なほどに懐かしくて。



 「記憶は残ってる」って、女は言ってた。


 どういうことかって言うと、こっちの世界の『俺』の記憶が、頭の中に入ってるらしい。


 なんのこっちゃ??って思ったが、どうやら、今俺の頭の中には、「俺」と『こっちの世界の俺』の記憶が、両方混在してるらしいんだ。


 だから、“時々思い出すことがあるかもしれない”って言ってた。


 夢の中で見た景色のように、曖昧な線として浮かび上がってくるかもしれない、って。


 だけど、ほんとにそうなのかな。


 理屈はわかってんだけど、こっちの世界の記憶が蘇るみたいなことが、まだ、起こった試しはない。


 ただ、妙に懐かしいなって思うことがあった。


 初めて見る景色のはずなのに、“なんか見たことがある”って感覚?


 それに近いものが。



 机の中にある『バッティング理論』の本。


 『俺』の愛用書だ。


 ページのいくつかに付箋がしてあって、カラーペンで、要点にチェックが入れられてる。


 勉強熱心だな。


 野球のことに関しては。



 一ノ瀬さんから聞いたが、最初は半信半疑だった。


 1年でレギュラー張ってて、しかも、「4番」だっていうことが。


 強豪校じゃないとは言え、“1年でレギュラーで4番”ってわりとバグってる。


 “期待のスラッガー”って、チームでは思われてるっぽかった。


 練習試合ですでに10本以上ホームランを打ってるって、津嶋先輩から聞いた。


 10本ってやばくね??


 どこの球場で打ったのか知らないが、硬式ボールだろ?


 俺、まだ打ったことないぞ?


 試合はもちろん、ただの練習でも。

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