サラサラと靡く髪。
粟立つアスファルトの靄。
日の光は街の表面を照らしていた。
影はさっきよりもずっと濃くなり、コントラストが強くなる。
少女の左右には、片側4車線を埋め尽くす車が所狭しと並んでいた。
真向かいのビルの骨格は、細かい線を幾重にも重ねながら、確かな重厚感を備えていた。
僅かな変化の機微も逃さずに、翼を広げている鳥。
淀んだ空気は一切ない。
それどころか、詰まったような息苦しさが、時間が経つごとに増していき。
…いや、だけど…
「時間」…?
そこに時間はない。
その“流れ”、奥行き。
全てが硬直して立ち止まったままのなのに、少女は平然とその平面上を歩く。
交差点と、横断歩道。
車と人の行き交う立体的な境界線上、——その境目を、通り抜けるように。
彼女だけが、世界で動いていた。
その形容は、意識の外側からやってきた。
外側…
意識のずっと、——深く。
無意識のうちに膨らんでいく「熱流」があった。
その熱は、砂浜にゆっくりと溶ける波のように、散り散りになりながら沈んでいく。
それは少し、街の喧騒に似ているものでもあった。
蝉の鳴き声に透けていく街角の影と、日に焼けるコンクリートの肌。
ジリジリと焼けつくような熱気が、地面の底から上がってくる。
悠然とした少女の佇まいは、街の表面を焦がすように冴えていた。
弾むスニーカーの音は力強く、それでいて鋭い。
こっちに来る…?
近づいてきてる。
…誰だ?
ロングの黒髪は、凛々しい雰囲気と相まって、圧倒的な存在感を放っていた。
端正な見た目が、スタスタと歩く軽やかな足取りの側から感じ取れる。
ある意味、異様な光景だった。
全ての景色や時間を置き去りにして、彼女だけが、世界で動いている。
それはまるで写真の中の被写体が、二次元の境界を越えて動き出しかのようだ。
何もかもが、“遅れていく”ように感じた。
それは、遠ざかっているようでもあった。
彼女を取り囲む全ての景色や、街の風景が。
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