雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第254話

公開日時: 2023年7月8日(土) 23:42
文字数:789


 サラサラと靡く髪。


 粟立つアスファルトの靄。


 日の光は街の表面を照らしていた。


 影はさっきよりもずっと濃くなり、コントラストが強くなる。



 少女の左右には、片側4車線を埋め尽くす車が所狭しと並んでいた。


 真向かいのビルの骨格は、細かい線を幾重にも重ねながら、確かな重厚感を備えていた。


 僅かな変化の機微も逃さずに、翼を広げている鳥。


 淀んだ空気は一切ない。


 それどころか、詰まったような息苦しさが、時間が経つごとに増していき。



 …いや、だけど…



 「時間」…?


 そこに時間はない。


 その“流れ”、奥行き。


 全てが硬直して立ち止まったままのなのに、少女は平然とその平面上を歩く。


 交差点と、横断歩道。


 車と人の行き交う立体的な境界線上、——その境目を、通り抜けるように。



 彼女だけが、世界で動いていた。


 その形容は、意識の外側からやってきた。


 外側…


 意識のずっと、——深く。



 無意識のうちに膨らんでいく「熱流」があった。


 その熱は、砂浜にゆっくりと溶ける波のように、散り散りになりながら沈んでいく。


 それは少し、街の喧騒に似ているものでもあった。


 蝉の鳴き声に透けていく街角の影と、日に焼けるコンクリートの肌。


 ジリジリと焼けつくような熱気が、地面の底から上がってくる。


 悠然とした少女の佇まいは、街の表面を焦がすように冴えていた。


 弾むスニーカーの音は力強く、それでいて鋭い。



 こっちに来る…?


 近づいてきてる。


 …誰だ?


 ロングの黒髪は、凛々しい雰囲気と相まって、圧倒的な存在感を放っていた。


 端正な見た目が、スタスタと歩く軽やかな足取りの側から感じ取れる。

 

 ある意味、異様な光景だった。


 全ての景色や時間を置き去りにして、彼女だけが、世界で動いている。


 それはまるで写真の中の被写体が、二次元の境界を越えて動き出しかのようだ。


 何もかもが、“遅れていく”ように感じた。


 それは、遠ざかっているようでもあった。


 彼女を取り囲む全ての景色や、街の風景が。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート