「お前になにがわかるんだよ」
千冬の声でも聞いたのか?
俺を待ってるって、そう言ってるのか?
友達だかなんだか知らないが、お前こそ、知ったような口を叩くなよ。
何も知らないくせに。
「あの日、なんでキーちゃんが海に行ったか知っとるか?」
…あの日?
あの日っていつだよ。
「キーちゃんが事故に遭った日」
…ああ、と思わず口を窄めた。
初夏の季節だった。
風の匂いが変わった7月のことだ。
海で溺れた千冬が、発見されたのは。
「…それが、どうかしたんか?」
「キーちゃんは、世界の向こうに行こうとしてた」
「ハァ!?」
…何を、訳のわからないことを
大体俺は思い出したくもないんだ。
あの日の千冬の顔を、夏が来るたびに思い出す。
本当は今日だって、海に行きたくはなかった。
キャッチボールなんてどこでもできるし。
空き地はそこら中にある。
でも、人の話を聞こうとしないから
「…あんたと一緒に、甲子園に行こうとしてた。真夏の大舞台に立って、触れたこともない時間に触れて、できるだけ大きく、振りかぶってみたかった」
「…やめろ」
女の言葉は、誇張もなく響いてきた。
それがすごくもどかしくて、…やるせなくて、思わず唇を噛んだ。
“そんなんじゃない”と、心の中で言い返してた。
思うように、喋れなかったが。
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