「自分の名前は覚えとるんか?」
「それくらいは、まあ」
「貸した千円ちゃんと返しぃや?」
「え!?」
千円なんて持ってないぞ。
今小銭しかない。
つーか人に金借りるなよ…
何やってんだ、俺…
「今日は返せんかも…」
「いつでもええで?」
「わかった」
千冬は俺の方を向いてもくれない。
視線を送ってるんだが、全然届いてないようで。
俺の話を信じられないのはわかるが、協力くらいしてくれても良くね?
ギリギリまで、まじで悩んでたんだ。
行こうかどうしようかと。
…ただ、まあ、千冬と一緒に学校に行きたかったっていうのはある。
ぶっちゃけると、少しワクワクしたんだ。
そりゃ、今すぐにだってアイツを探さなきゃだが、千冬と一緒に学校に行けるって思うと。
「おはようございます。出欠とりますよー」
担任が来て、ホームルームが始まった。
無駄にガタイが良い先生だ。
無精髭にグレーのスーツ。
パーマが当たったような髪型は、毛先がチリチリしてる。
仏教面と言えば仏教面で、糸を引いたように目は細い。
みんな、担任のことをイッシーと呼んでいた。
イッシーだから石田?石川?
下の名前ってことはないだろう。
多分。
「青木さん」
「はい」
「井上さん」
「はい!」
「上原さん」
「はい」
…………
……
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