「…バッテリー?…お前が、キャッチャー?」
「そうやで」
清々しくそう答える。
…キャッチャーって、マジかよ…
なんでお前が…?
ミットを構えてる姿を想像することはできなかった。
その姿もだし、そもそも、「キャッチャー」っていうのが。
女子に務まるようなポジションじゃないだろ。
できないことはないだろうが、きついと思うぞ?
体力的に。
「ドルフィンズにおった時だけやけどな?」
「…へぇ」
女はそれ以上詳しくは話さなかった。
眠っている千冬に、子供の頃のことを語りかける。
その表情はどこか大人っぽくて、どこか温かかった。
どんなことがあったのかはわからない。
3人で過ごしてたこと。
あの海辺で、キャッチャーボールをしていたこと。
…俺たちと幼馴染だった?
その言葉が、頭の中に引っかかる。
別に、女の言ってることを信じてないわけじゃない。
全部が全部ってわけじゃないが、理解しようとはしてるんだ。
実際この目で、色々見たし。
だけど、どうしてもイメージができなかった。
未来のことについてもそうだ。
「甲子園に行った」っていうことも。
雨が降り続けてることも。
“俺が知るわけない”って、彼女は言う。
けど、それじゃあお前の言う「俺」って誰なんだよ。
別人か?
それとも、クローン的な?
さっきの世界でもそうだった。
部屋の中のアルバムも、ラインの履歴も、全部。
冷蔵庫の中のピクルス。
録画したはずのテレビ番組。
何もかもあり得ないと思った。
だから部屋中漁った。
「自分」が、そこにいないみたいで…
「簡単には説明できんのや」
「大ちゃんも健太も、みんなおらんくなっとった。部屋の模様は変わっとるし」
「須磨高に行ったって言っとったな」
「そうや。お前を探しにな」
「ご迷惑をおかけしたようで」
「ほんまそれ。まじでどこおったん?」
「…まあ、色々」
お前の着てた制服、あれどこの?
どこにでもありそうな制服だったが、ここらへんの高校じゃなさそうだった。
北高かな?って一瞬思ったけど、あそこは確かスカートが赤色だった。
シャツとか襟のデザインとかが似てるから、もしやとは思ったが。
「どこでもええやろ」
「めちゃ気になるやん」
「逆になんで須磨高におると思ったん?」
「…そりゃお前、他にめぼしいとこなんてなかったから」
「私の家に来ればよかったのに」
「お前の家?…ああ、あそこか」
「あの世界では、まだ神戸に住んどった。大阪には引っ越しとらんかった」
そうなのか。
じゃあ、街のどっかにいたってことか。
てっきり大阪にいんのかと思ったよ。
探しようがねーなぁ、って思ってた。
住所とかなんも聞いてなかったからな。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!