「キーちゃんは、未来を変えるために世界を旅した。遠い過去と、未来と、全てを繋ぎ直すために」
世界を旅した…?
…って?
「さっきの世界で、あんたは何を見た?」
「何を…って…」
「キーちゃんがおったやろ?」
「…ああ」
「あの世界でまだ「夏」は来とらん」
「はあ??」
「せやから、甲子園を目指しとるあんたたちが、この街の上におった。あの場所、あの季節の向こうで、キーちゃんは追いかけとるんや。たった“1球”に触れられる瞬間を」
神戸高のユニフォームを着て、グラウンドの上に立っていた。
高校生になった彼女と、手入れの行き届いたグローブ。
部屋の壁に貼られた、「目指せ甲子園」の文字。
それにどんな想いが込められてるかを、知らないわけじゃない。
「…たった、1球…?」
「そうや。キーちゃんは夢見てた。一度きりの勝負の中に、まっすぐ向かっていける日を。隕石が落ちる前の世界にあった夏。——その場所に、たどり着こうとして」
女の言ってることがわからない。
千冬の夢なら、誰よりも知ってる。
だけどそんなの聞かされたって、実感なんて持てない。
千冬は海で溺れた。
ずっと隣にいた彼女が、突然いなくなった。
あの日に何があったのかを、今でも考えてる。
千冬はいつも夢みがちだった。
自分にできないことはないと、いつも信じてた。
2アウトフルカウントからの1球に、ストレートのサインを要求し。
女が言ってること、その“内容”を、うまく拾い集めることができない。
俺に会いに行こうとしていたとか、未来を変えようとしていたとか…
俺が知ってる「彼女」は、ずっと「過去」の中にいる。
さっきの世界に行くまでは、どんな顔で笑っていたのかさえ、うまく思い出せなかった。
一緒に海に行って、キャッチボールして。
電車に乗って遠くまで行った。
大阪湾の麓まで突っ走り、瀬戸内海の端まで。
だから、…よくわからないんだ。
千冬に会えるならどんなことだってする。
世界を変えられるってんなら、甲子園でもなんでも目指してやるさ。
…でも、そんなのあり得ないだろ?
過去は変えられない。
起こった出来事は、永遠に同じ場所にあるままだ。
そんなのわかってるんだ。
頭の中で考えなくても、“やり直せない”っていうことは。
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