雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第304話

公開日時: 2023年8月26日(土) 19:44
文字数:904


 「キーちゃんは、未来を変えるために世界を旅した。遠い過去と、未来と、全てを繋ぎ直すために」



 世界を旅した…?


 …って?



 「さっきの世界で、あんたは何を見た?」


 「何を…って…」


 「キーちゃんがおったやろ?」


 「…ああ」


 「あの世界でまだ「夏」は来とらん」


 「はあ??」


 「せやから、甲子園を目指しとるあんたたちが、この街の上におった。あの場所、あの季節の向こうで、キーちゃんは追いかけとるんや。たった“1球”に触れられる瞬間を」



 神戸高のユニフォームを着て、グラウンドの上に立っていた。


 高校生になった彼女と、手入れの行き届いたグローブ。


 部屋の壁に貼られた、「目指せ甲子園」の文字。


 それにどんな想いが込められてるかを、知らないわけじゃない。



 「…たった、1球…?」


 「そうや。キーちゃんは夢見てた。一度きりの勝負の中に、まっすぐ向かっていける日を。隕石が落ちる前の世界にあった夏。——その場所に、たどり着こうとして」



 女の言ってることがわからない。


 千冬の夢なら、誰よりも知ってる。


 だけどそんなの聞かされたって、実感なんて持てない。


 千冬は海で溺れた。


 ずっと隣にいた彼女が、突然いなくなった。


 あの日に何があったのかを、今でも考えてる。


 千冬はいつも夢みがちだった。


 自分にできないことはないと、いつも信じてた。


 2アウトフルカウントからの1球に、ストレートのサインを要求し。



 女が言ってること、その“内容”を、うまく拾い集めることができない。


 俺に会いに行こうとしていたとか、未来を変えようとしていたとか…


 俺が知ってる「彼女」は、ずっと「過去」の中にいる。


 さっきの世界に行くまでは、どんな顔で笑っていたのかさえ、うまく思い出せなかった。


 一緒に海に行って、キャッチボールして。


 電車に乗って遠くまで行った。


 大阪湾の麓まで突っ走り、瀬戸内海の端まで。



 だから、…よくわからないんだ。


 千冬に会えるならどんなことだってする。


 世界を変えられるってんなら、甲子園でもなんでも目指してやるさ。


 …でも、そんなのあり得ないだろ?


 過去は変えられない。


 起こった出来事は、永遠に同じ場所にあるままだ。


 そんなのわかってるんだ。


 頭の中で考えなくても、“やり直せない”っていうことは。



 

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