雨上がりに僕らは駆けていく Part2

目指せ、甲子園!
平木明日香
平木明日香

第255話

公開日時: 2023年7月9日(日) 20:03
文字数:1,033


 …待て



 …どこかで見たことがある



 見た目も、雰囲気も、頭の隅に引っかかった。



 …まさか




 世界が止まっている。


 そのこと自体は、これで2回目。


 初めてじゃない。


 動かなくなった空も、波が持ち上がったままの海の水面も、記憶の片隅に思い出せる。



 漂流する時間。


 その一瞬の中に、「全部」が閉じ込められていたあの時…




 アイツはいたんだ。


 海沿いの線路の真ん中


 ——その場所に、立って。



 あの時、遮断機はまだ降りていなかった。


 「どうせ言葉じゃ、伝わらんやろ」


 そう言って、アイツは飛び越えたんだ。


 向かってくる電車の前に。


 それで…



 「おっす」



 街のど真ん中を歩く。


 胸の上で揺れる、赤い蝶ネクタイ。



 その「声」は、アイツの声に違いなかった。


 静寂の中で一際際立つ、透き通った声色。


 弾んだトーン。



 混乱する頭の中で、必死にその声を追いかけた。


 だって、…そうだろ?


 どうしてこの場所にいる?


 どうして、平然と歩いてられる?


 わからなかった。


 まさか、彼女と遭遇するとは思わなかった。


 遭遇というか、…なんというか



 「…楓?」



 自然と、その声は出た。


 気がついたら、アイツを呼んでた。


 アイツの名前を呼ぶのは、これが初めてかもしれない。


 今まで、まともに呼んだことはなかった。


 友達でも何でもないし、なんて呼んでいいかもわかんなかったし。



 ザ・セーラー服って感じのオーソドックスな見た目と、嘘みたいに長い髪。


 一目見ただけじゃ、アイツとは思えない。


 見た目が全然違ってた。


 パッと見た感じが、だけど。



 でも、歩き方でわかった。


 なんとなく。


 どこかサバサバしてるというか、出会った時のあの感じ。


 全然女の子っぽくないよな?


 まあ、性格を見りゃ、そりゃそうかってなるんだけどさ。



 トッ、トッ…



 ゆっくりと近づいてきて、彼女は言った。


 俺の声が届いたかどうかはわからなかった。


 ただその表情は、どこか柔らかかった。


 呆然とする俺を嗜めるように、微かに笑ったような気がして。



 「ようやく名前で呼んでくれたか」


 「…え?」



 シワひとつない、白シャツと紺色のスカート。


 須磨高の制服とはちょっと違う、シンプルな色遣い。


 かといって、神戸高の制服でもない。


 白いラインの入った、ブレザーの肩の襟。


 スカートの紺色は、どっちかっていうとブルーに近くて。



 …ようやく?


 ようやくって何が?


 俺は尋ねた。



 「ようやく…って、なにがや?」


 「もう時間や」


 「は?」


 「タイムリミットやって言うたやろ?」



 …タイムリミット?


 一体なんのことだ?


 というか、今までどこ行ってたんだ?


 ずっと探してたんだぞ?


 街の中を、色々歩き回って——

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