やりたいことがなんでも叶う魔法の石を拾いました

〜素寒貧探偵の拾ったダイヤモンド〜
我才文章
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シーン4 強くなりたい(いわゆる修行回)

公開日時: 2022年1月3日(月) 00:00
更新日時: 2022年2月8日(火) 14:54
文字数:4,713

前回までのあらすじ

命を賭して願いを叶える為の殺し合い。そんなまともな神経してたらノーセンキューなバトルロイヤル。

クールビューティーでブラックファッションの水原のどかは炎を操る剣を駆使して、無事頭のイカれた素寒貧な自称探偵との対決に無事勝利を収めたのだった。


「お前は、またよく分からないことを考えているな」

出鼻から当たりがキツいのどかさん。

「さっきの戦いで気になったんですけど、聞いていいですか」

何で、あの熱線を直接こっちに向けて撃ち続けたのか。

巨大な氷で防いでいたのだ。何だったら、氷を溶かすスピードが丁度いい塩梅で水平に溶けるくらいの熱の伝わり方だったのもあるが。前から氷を溶かしていけば自ずと、ビームを撃ち込んでいる方向に倒れ込んできてもおかしくない、と言うよりも。

そっちの方が自然だ。

「そんなの説明しなくても分かるだろう」

彼女の説明を聞いて、納得した。

「あんなデカい炎の竜がすぐ近くにあったら、眼前の状況、まして透明な氷の様子なんてはっきり見られるはずがないだろう」

なるほど。熱と炎を操作する猛火の紅玉にそんな弱点が。

って、んなわけあるかーい。

「あの火竜とか言う技、欠陥だらけじゃん」

あのビジュアル重視の技、威力が大きい分視界も狭めて状況の判断を鈍らせると言うデメリットもあるからあれだけの威力がある。そう考えるとリスキーだな。そう思っていたら……。

「いや、思っているほど酷くないぞ」

彼女は気付くと握っていた炎の剣の先端に握り拳大の熱エネルギーの球体を作っている。

あの竜なくても撃てるんかーい。

「あの炎龍像は、普通は邪魔なだけだからな。よほど敵が雑魚でもない時以外は使う機会も滅多にない」

どうやら攻撃の威力アップ、エネルギー効率上昇、敵をビビらせるビジュアルのオブジェクトと言う代物だったようだ。

「俺にナメた真似とか言いつつ、自分は俺を相応に舐めプしやがってありがとうございます」

「まあ、土壇場の爆発力と私の読心への対応力。潜在能力ポテンシャルと、詰めの甘い部分が利用価値を見出した部分だ。お人好しと言う面と詰めの甘さは、言い換えるなら寝首をかかれる心配が不要と言う点。最も都合がいい部分だ。こっちはいつでも捨てられるが、お前から私を裏切ったりしないだろう。このゲームは相性と言う面から戦略性も求められる。手を組むこともまた、この殺し合いの輪の中で想定されている動きだろう」

お褒めいただいたが。要するに彼女からしてみれば……。

「捨て駒?」

「弾除け」

そう言う扱いではあるが、協力関係ってヤツになった。

「あと、不本意な面もあるが。私の見立てだと、今のお前じゃ偽物ダミーごときにも手を焼くことだろう。だから、今から少し揉んでやる」

揉む……? と刹那で過った思考ノイズに彼女の反応はと言えば。

「これだから……男ってヤツは」

彼女が何を読んだかはご想像にお任せします。


のどか先生から欲望の石の授業の時間が唐突ながら始まった。

「氷も、炎も。言い換えると熱と冷気だ。形ある物体と言う側面よりも、無形の現象と言う側面が強い。想像力と咄嗟の対応力次第で、姿は如何様にも変わる。さて、ここで一つ問題だ。イメージしやすくするためにあえてこちらで聞く。お前は日常的に火をどう使ってきた?」

火について、か。そうだな……。

「小学校の理科の実験では、マッチを擦ってアルコールランプに点火する。食塩水を加熱して水気を飛ばして、塩を取り出す実験もあったな。ガスコンロは加熱調理に使うか……フライパンで肉を焼いたり、鍋を煮たり? あと、自動車の運転とか、火力発電なんて言うのも火そのものをこの目で見ていないけど。大元は火を点けて。運動エネルギーや電気エネルギーを取り出す為の装置みたいな物だって言い換えられるか?」

そんな風に少し言ってみると。

謎の沈黙が訪れた。

数秒の沈黙の後、のどか先生はようやく口を開ける。

「変な物でも食べたか? そこまでの答えを要求した覚えはなかったんだが……」

「えー……」

ちょっと、いくらなんでも馬鹿にし過ぎでは。

現実に探偵は刑事事件解決の推理力なんて要求されることはないだろうけど。一般常識レベルの知識くらいあるわい。

「……探偵?」

心を読むなと言いたくなるわよ。

「わー、さっき俺のペットに似たような感じに馬鹿にされてたの思い出しちゃったー」

ちなみに、そのフブキはずっと側に気配は感じるが。

騒がれても邪魔なんで黙らせております。

「話を戻そう。お前の挙げた3つの例、丁度いいから使わせて貰うぞ。アルコールランプを使って食塩水から塩を取り出す理科の実験だ。まず、マッチに点火、次にアルコールランプに着火、ビーカーの食塩水を加熱。こう言うプロセスを経て実験は成功だ、おめでとう」

「ありがとうございます」

何もしてないけど祝ってもらえました。

「次は、ガスコンロによる加熱調理か。点火、加熱。ここで加熱には技術を挟むな。生姜焼きの加熱時間が足りない場合、長過ぎた場合どうなるか答えろ」

「はい、短ければ生焼け。豚の生食は食あたりのリスクがあります。長過ぎたら焦げます。食べられません」

「100点満点の答えだ。偉いぞ」

この年齢になって、授業で褒められる側になる。しかも年下相手に。

やったー、超嬉しい。

「最後の例。これはボイラー装置やエンジンの構造は本題から逸れるから要点をしぼるぞ。蒸気機関、燃料を燃焼させて。……なんやかんや。結論から言えば、燃焼させて取り出した熱エネルギーを運動エネルギー、電気エネルギーに変換したわけだ」

なんやかんやは、なんやかんやです。助かる。

「さて、火の利用方法はこんなとこだ。ここからが本題だ。火の利用ではなく、これを火の『支配』に置き換えた場合のプロセス、時間、エネルギー変換について考えていこうか」

うん、ここからの授業が本題か。学校じゃ教われない中身だな。

「さて、氷室正義。最後の問題の結論を先に言うのと同じなのだが。お前の凍結の金剛石でも猛火の紅玉と同じ事は出来る。火を支配する場合、食塩水から塩を取り出す手順を順を追って説明してみろ」

……ハァ!? そんなこと、考えたこともない。

「願います。食塩水から塩が取り出せました」

んなモンわかるか。ヤケクソ気味の適当に答えてみた。

すると、意外な答えが返ってくる。

「流石だな、大正解だ」



……は?


「いや、何だそれは。そう言うのって、ちゃんとしたプロセスを踏んで結果が出るんじゃないの?」

「お前が言った通りのプロセスを踏んだだろう。願い、叶った。どこに問題がある?」

「納得出来ない! 分かりやすく説明してください!」

「これ以上なく分かりやすく説明した。だから、今から小難しい説明をしてやる。願いを叶えるプロセス、手順についてだ」

気付くと黒板とチョーク、黒板消しに教壇。勉強机に椅子が用意されている青空教室になっていた。

敏腕女教師にマンツーマン授業を受けています。

「火を利用してマッチに点火、ランプに着火、そして食塩水を加熱。つまり利用をした場合は、3つのプロセスを挟んだ。しかし、火を支配した場合のプロセス。利用した場合の3つの手順をすっ飛ばす。火を利用するなら手順が必要になるが、欲望の石による事象の支配とは手順はいらない。火を用いることで得られる結果そのものを叶える。食塩水から塩を取り出す手順と言う時間を支配し、過程を無視し、得られる結果を同じとする。欲望の石で願いを叶えるプロセスとは時間と事象の支配、と言う事だ」

あれ、納得出来ないからちゃんとした説明を受けました。

すると余計に理屈に対する理解が追いつかない。

不思議な感覚。どういうこと???


「よし、氷室正義。分かりやすい説明をもう一度おさらいだ。火を支配して、食塩水から塩を取り出す手順は?」

「願います、叶いました」

「優秀な生徒だ。授業を続けよう」


褒められたし、理解出来たぞ。全然納得出来ないけど。


「ガスコンロで調理、だったな。まず最初に、フライパンでお前は生姜焼きを焼き上げた。そのつもりだったが思ったほど火が通っていなかった。さあ、どうする?」

馬鹿にしてんのかい、と思うような問いだ。

「生焼けでは危ないので再加熱します」

「それが普通だな。次に行こう。お前は生姜焼きを消し炭にしてしまったとする。火力の調節を間違えた。さて、どうする?」

これも同様。

「食えたものじゃないので、勿体ないけど捨てます」

「それが火を用いた場合の調理方法だ。時間とは不可逆で。火を通すとしても加熱時間は一方通行。熱を加える時間は伸ばすことは出来ても、元には戻せない」


「じゃあ、おさらいも兼ねて。お前が火を支配して生姜焼きお作る手順は?」

「願います、生姜焼きが焼けました」

「パーフェクトだ。花丸をくれてやる」

この流れ、次に来る質問が読めてきた。

「何故、生姜焼きは短くもなく長くもない、丁度いい時間で焼き上がったのか?」

「願い、叶ったからだ。何早とちりしている。馬鹿が」

直球で貶された。さっき花丸くれたのに。

「応用問題だ。火を支配して、消し炭の生姜焼きを調理する手順は?」

なるほど、そう言う流れだったのか。

「願います。生姜焼きに戻しました!」

「その通りだ。消し炭になるほど火を通さなかった状態に戻す。火を利用した調理では時間が不可逆だ。だが、火を支配する場合時間は可逆性を持つことが出来る。事象の支配について、少しずつ理屈ではなくイメージを掴めて来たはずだ」


「最後。理屈ではなく、そういうものだと納得して貰う他ない、エネルギー変換についてだ。お前自身、車が何故走るか、タービンが回って電気になるかの理屈を理解していないだろう。だから、そう言う物、と言う説明以上のことはしない。火を利用して、車は走る。タービンは回り、電気が生まれる。そういうものだ。さて、最初の話題に戻ろうか。氷を支配して、火を支配するとしたらそのエネルギー効率はどうなるか」

「真逆の性質を持っているのに出来るんですか?」

「火を利用して、水を生み出すことは出来るだろう。そこにはプロセスを挟む。願います、叶いましたの流れは一緒だ。風を支配して、食塩水から塩を取り出すことは叶うだろう。水を支配したとしても叶えられる。だが、利用した場合のプロセスは割愛出来たとして、支配してもそのプロセス自体は存在するわけだ。勿論過程はすっ飛ばしている為に結果は同じだ。だが、エネルギー効率が違う」

最後の最後にすげえ爆弾が投下された。

「食塩水から塩を取り出したいと願った場合で考えてみよう。水を支配して塩を取り出す場合、恐らく考えうる限り最も効率よく願いが叶う。火も先ほどの例のプロセスを経て、願いが叶う。風を支配して、のプロセスで風から熱を生み出すと言った過程を挟んで塩を取り出すとする場合。火を支配する場合に比べて効率が変わると思わないか?」

「……頭パンクしそうです」

「欲望の石はエネルギー変換器で、どう言う事象を支配する事が得意なのか、それぞれ特徴がある。お前の凍結の金剛石で火を支配することは出来る。出来るが、願いのエネルギー変換効率は猛火の紅玉の数百倍から数千倍は効率が悪くなる」

そもそも、何でこんな授業を受けたのか。

「こんな座学、何の意味もないでしょ……」

「その通りだ。いい事を言うな。小学校の理科室で実験する授業の流れに沿っただけだ。理屈を教え、考えさせて。実際にやってみましょう。実体験に勝る納得はないだろう?」


のどかさんは告げた。赤毛の男も気付くと背後に立っていた。

「座学は終わりだ。実習授業で、力の使い方をレクチャーしてやる」


フブキと一緒に、ボコボコにされながら実習と言う名の特訓が始まった。次回に続きません。

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