やりたいことがなんでも叶う魔法の石を拾いました

〜素寒貧探偵の拾ったダイヤモンド〜
我才文章
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最終章 黒の石、約束の地

シーン1 自分を殺し続ける少女の死に地獄

公開日時: 2022年8月29日(月) 03:41
文字数:3,958

俺は憧れのパセリン、青森りんごと一緒に歩いていた。

手を繋げたらデートだ! なんて戯言を言う気分にもなれなかった。

なにせ、俺は。たった1日で3人もの所有者が命を落とした事実を目の当たりにしたくらいだ。はしゃげる気分じゃないわ。

「そう言えば、仕事だったはずじゃ……」

「それどころじゃなかったでしょ! お兄ちゃんが、敵に連れて行かれたって言う、一本の電話があって……」

何故、俺の元に来ることが出来たのか。

それを考えると……。思い当たるのは。

「先輩……。あー、っと。十輪フミさんからですか?」

「うん。……それで、のどかお姉ちゃんの居場所も教えてもらって。マサムネの薬師寺がいる。そう伝えたら素直に一緒に来てくれるはずだって……」

何でそこまで、深く事情を知り尽くしていられるんだ。

俺はこの期に及んでまだ、何も知らなさすぎる。

「とりあえず、ここからだと俺の事務所が近いんで。そこでひとまず休みましょう」

俺は、傷心の女の子を自分の部屋に招き入れると言う。

いや、なんだ。すげえ卑劣な真似をしてるろくでもねえ男に見えなくもねえぞ?

薬師寺の提示した豪邸と比べてボロい一室に招き込む。

まあ、それでも後悔はしていないが。

……えっと、いや。強がりなんかじゃ、ナイデスヨ?

「着きました。……なんか飲みます?」

俺は来客用の箱を開けると。

見事に空っぽになっていた。そういやそうだったわ。

……消費期限切れのお菓子を出す失礼からは逃れたものの。憧れの女性の前で、何の歓迎も出来ねえの?

冷蔵庫に、なんかないっけ?

安売りの牛乳だ! 来客にお茶、コーヒー、カルピスならあるが。あんまり牛乳そのまんま出されることってないよね。

まあ、出すけど。コップに注いだ牛乳をお出しする。

「牛乳かぁ。飲みたかったかも」

天使のような言葉で、まあ。結果オーライでした。

「そう言えばね。お兄ちゃんが寝てた間にね、響子ちゃんと色々お話したんだよ」

青森りんごはツラいだろうに。

自分からそこに踏み込んできた。

「あの子、ボクなんかよりしっかりと夢を見てたと思うよ。ボクなんかが応援するって言ったくらいで。ギターを今から、本気で練習して。メジャーデビューするんだって、張り切ってた」

「……そうですか」

できる訳ねえだろと言う本音は飲み込み、黙って聞く。

「うん。……夢を見て、叶えようと歩き出したばかりで。なんで? なんであの子は……」

まあ、俺はあの調子に乗った女を、最期まで好きにはなれなかったが。そこまで悪いヤツじゃないことはわかる。

バカ丸出しだったし、世の中ナメてたけど。

「この戦いに身を投じるってことは、命を賭けるってことです。……アイツは雷の力を悪用して、人の臨場感やら興奮をいじって、自分を好きな人間を増やそうとしてた、浅はかな考えをしてたけど」

……そうとしか考えられねえ盛り上がりをしてたな。

あの下手くそな路上ライブ、願いの力に耐性があったから、俺は素直に。ボロクソに貶せたんだろうが。

「でも。あんな風に死ぬのは……やりきれないですね」

あら。ここで、マグホに通知音が。

そっちに目を通した。気になったんで読み上げる。

新聞記事の切り抜き?

「……2年前の6月某日、放火によるものと思われる火災で4人家族の内、会社員に水原篤(54)主婦の水原恵子(52)……高校生の水原のどか(18)の3名が死亡。無職の兄を重要参考人として捜索中……?」

「水原のどか……? のどかお姉ちゃん?」

火災事故で、死亡した少女。

先輩が先ほど言っていた、ご褒美とはこれのことか。

「あれ? 6月に18歳。それで高校生……おかしいな。ルビーって7月の誕生石だったと思うんだけど。パセリン、誕生日は5月9日のおうし座でしたよね。誕生石はエメラルド」

なんかの雑誌でチラッと見ただけのはずの情報、なんで俺こんな詳しく覚えてたんだ。我ながらキモいな。

「そうだよ?」

「高校受験で浪人、あるいは大きな病気……? イメージ出来ないな」

欲望の石は12個あって、誕生石と合致する石が選ばれてる。それでもって、俺も4月生まれであり。誕生石はダイヤだ。7月生まれでは、18歳にはなるまい。

追って、もう一回。通知音。

※閲覧注意※

と言う、今度はあまりにもわかりやすいタイトルのファイルが送られてきた。

……俺は、筆舌しがたいほどの、おぞましい人体……。いや、人ならざる体の実験で、酷い目に遭っていたのどかさんの過去を知る。

数値データ、実験映像、研究員の所見と言う部分で、マサムネの内部のデータをそのまま持ち出したもののようだ。

映像も、モザイク加工など一切していない無修正のもので。ショッキング過ぎるものが多かった。

隣にいるパセリンには見せられませんでした。

「薬師寺誠也。……アイツだけは、許せない」

水原のどかの遺体を偶然回収した薬師寺をはじめとした実験チームが、7月頃に彼女を甦死化し、故人の記憶と人格を完全に継承させた上に、欲望の石の適合実験を着々と続けた特性の改造個体。甦死の進化体『復活者』として蘇らせ。

毎日のように、甦死ならびに欲望の石を使った実験を行なっていった。


なあ、のどかさん。

俺の場合。顔無しは、親父の顔が浮かんでくるけど。

君の場合は、何が浮かんでくるんだ?

亡くなったご両親? いや、違う。

君はきっと。鏡に映った、生きていた頃の自分の姿を見ていたはずだ。

自らの命を奪った、忌まわしい炎を操り。

自分の顔をしたバケモノを倒し続けた。

それはまともな心があったら耐え切れないだろう。

自分を生かす為に自分を殺し続ける作業か。

彼女が何の罪を犯し。そこまでの苦痛を、罰を与えられなければならないのか。

何よりも残酷なのは、その残酷過ぎる現実で痛む心さえ持っていない事だ。……俺達は、彼女に比べたら甘いと言われても仕方ない。


「……電話だ。先輩からです」

「うん……」

俺はきちんと。出た。

「……見た?」

その一言は。

「はい。見ました」

先ほどの、水原のどかの背負う過去と願いそのものの裏付けになる資料のことに相違ない。

「アンタごときと、戦いに挑む覚悟。背負っているものの重さ。段違いね、のどかちゃん。真面目なコ」

「そうでしょうね。なのに、俺は。あの子に……」

「それが面白くないんでしょ。のどかちゃんは」

先輩はそう言った。

「アンタごときに何が出来るのか、よ。何でも背負おうとしたって、重さで押し潰されるだけよ」

……重くても、逃げたくない。見捨てたくない。

今度こそ、俺は。悲しみを背負う女の子を救いたい。

「ちなみに先輩は、あの場所で起きたことをどれくらい把握してます?」

浅倉総合病院にて、所有者が3人も立て続けに命を落とした。その事実を。

「途中から全部見てた。……アンタの行動、ウチには全部筒抜けだって知ってた?」

「それが、先輩の持つ才能とか言うものですか?」

マグホと言う最新鋭の情報処理端末。充電いらずで、電話もできるし。ネット接続も可能。先輩がなんでも俺のことを理解できる理由はコイツだろうと、とっくに気付いているけど。先輩は、答える。

「こんなモン、ほしいって頼んだ訳じゃないけど。どうせなら楽しもうって開き直るしかなかっただけ。運命力フェイトって知ってる?」

「いえ、初耳ですが」

「……なら、別に知らなくていいわ。ウチはウチで、アンタ等みたいな厄介事背負ってるってだけの話。一応言っとくけど、そっちはそっちで別のバカがいるから。アンタはアンタのやりたいことをやんなさい。余計なクビ突っ込もうもんならそこの事務所から追い出すよ」

先輩は先輩で、自分の戦いがあるらしい。

その割には、出来の悪い後輩への面倒見がよくてマジで助かってます。

「先輩はどこまで知ってるんですか? マサムネが何を企んでいるのか……」

「マサムネだって一枚岩って訳じゃないもの。ふわっと聞かれてもわかんないわ。ただ、ウチ個人の感情で言うと。ああ言う連中大っ嫌いなの。さっきのアンタの啖呵は聞いててスカッとした。さっきのはご挨拶ね。ご褒美は期待しろって言ったじゃない? 色々聞きたいことあるでしょうから、少しばっかり付き合うわ」

ああ。……この人はやっぱ、俺の理解者で。数少ない俺の味方でいてくれるんだな。

「そう言えば、アンタ等欲望の石の所有者が起こした物的、人的損壊の補償ってどこがやってるかご存知? マサムネが尻拭いしてくれてんの。まあ、多分あのクソメガネのチームじゃないかな。甦死なんかを暴れ回らせてる時点でマッチポンプとも言うけどね」

言われてみれば、と。少し気にしていた部分。

「それを聞いたら無性に暴れたくなっちまいますね」

「思いっきりやっちゃえば? まあ、あんまり一般市民を巻き込まないことだけは気をつけて欲しいけど。多少巻き込んだ所で、甦死がひしめくような場所だもの。大した違いはない気もするけど」

「いや、俺は! 守る為に戦う。……あんな奴等に、無能だなどと侮られて、見捨てられるような人。増やしちゃいけない! そうでしょ!」

俺みたいな人間を増やしちゃいけない。

奴等に大切な人を奪われて、人生を歪められて。

傷つけられる人を、これ以上出しちゃいけないんだ。

「……ガラにもないお世辞、言いたくなったわ」

一呼吸置いて、彼女はこう呟いた。


「アンタ、もう。立派な探偵ってヤツじゃないかしら」


俺は、その言葉を聞いて。涙がこぼれそうになった。


「フフ、ガラじゃないこと言った。サブイボ出てきた」

「おい!」

「それはさておき。いつものようなついでのお願いじゃない。氷室正義を一人前の探偵であると見なして。正式な依頼として頼み事をしていい? アンタ自身もカタをつけたいと思ってることだと思うけど」


水原のどかの一件よりも先に、片付けておきたいと思っていた部分もある。

先輩の依頼の中身を、俺は先んじて口にする。

「美作陽、光輝の柘榴石の所有者ですよね」

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