やりたいことがなんでも叶う魔法の石を拾いました

〜素寒貧探偵の拾ったダイヤモンド〜
我才文章
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シーン3 互いに純粋、然れど真逆

公開日時: 2022年9月5日(月) 02:55
文字数:3,427

俺の眼前に捉えた、待ち望んでいた人物の姿。

ハスキーボイスで、スレンダーなお姉様。

そう見間違えてしまう者もいるだろう。

だが、そうじゃない。

ヤツの本性は、溢れんばかりの邪悪を女装で綺麗に隠したキレたサイコパス。

シリアルキラー、美作陽だ。

「ご挨拶だな、美作。テメェ、衆目の中で堂々と暴れ回ろうとか」

そんなことより、俺の隣にいる女性に傷を付けようとしたことが許せねえわけですが。

「いやねぇ。そこにいるハニーのかわいいおでこを焦がしてやりたくなっただけじゃない。……アタシがいるのに、浮気しちゃうダーリンに少しイジワルしたくなっちゃったダケ」

「あぁん!?」

俺の怒りは全然収まる気配はなかった。コイツは万死に値する。その事実は絶対に揺らぐことはないが。

そこに至って突如。俺を押しのけ、割って入ったのは。

「あ。はじめまして! ボクの名前は青森りんごって言います。……美作のお姉ちゃん、一度会ってお話ししてみたいって思ってました!」

「なぁに? アナタ」

「そして、ボクもキミと同じように。所有者です」

嘘偽りで身を固めて、人を騙し食い物にする殺人鬼に対して。真っ向正面から、正々堂々と真実を突きつける。

その姿は、見るからに正反対だ。

「ああ、許せないわぁ! アナタ、本物じゃない」

「……ん? 何が?」

「嘘偽りで塗り固めたニセモノじゃ、敵わないような輝きをみせてくれる。それをホンモノって言うの」

美作は銃口を模した指先を大切な人に向けてこう告げる。

「ぶっ壊したくなるほど、大っ嫌いなタイプだわぁ」

俺は、その刹那。彼女の方に突進、突き飛ばす形でヤツからの攻撃から庇った。ヤツの攻撃の単発の威力は大したことないとは言え、女の子の顔に当たれば取り返しのつかないレベルの火傷痕として残りかねない。

「人目が多い、この店の中で暴れるつもりかよ。お前」

「そのつもりはもうないわよ。……でも、ダーリンがアタシに見せつけるようにそのコとイチャイチャするんだもん。我慢の限界だったダケ。嘘じゃないから安心して。これ以上は此処じゃ何もしないわ。アタシの美貌は目立つケド。美貌以外で目立つのはポリシーに反するもの」

久しぶりだが、やっぱりコイツのこと。反吐が出るほどに嫌いだと再認識したが。

「そもそも。聞いていいか? なんで、俺なんだよ……お前に好かれるようなことしたか?」

「うふ、気になっちゃう? そうねぇ。一目惚れ、かしら? アナタから、アタシに似た寂しさを感じ取ったから、とでも言い換えちゃう?」

うわっ、気色悪っ! 知らないのも不気味だったが、知ったところできしょいわ。

「そうね、モリリン? ダーリンの隣に相応しいのはアナタじゃないわ。……場所を移して、お話しましょ?」

青森りんご、森とりんごの部分繋げて妙ちくりんな渾名を適当に付けやがった。コイツがそう呼ぶなら俺は絶対にそんな呼び方はしねえと心に決めた。

「ええっと……」

「ヤツの誘いに乗らないで! コイツは何をしでかすかわからない」

「……過保護過ぎるオトコは、女のコに鬱陶しいって思われちゃうわよ? 随分と信用がないわねぇ……」

残念そうなものを眺める眼差しを注がれる。いや、不本意だよ。だってさぁ?

「過保護じゃねえだろ! 既にお前、指折り2本分は殺しにかかってただろうが! 頭ニワトリかよ!」

「コケコッコ。忘れちゃった♡」

なんなんだコイツ。ふざけた事ばかり抜かす。

コイツとの掛け合いで、ひしひしと殺意ばっかり募っていく。

俺は人を傷付けることはしないように思っていたが。

コイツだけは、百回ブッ殺しても物足りねえくらいだ。

「お姉ちゃん。ボクはお兄ちゃんと一緒だったら、お話したいと思うよ。……お酒は飲めないけど、どこかで美味しいものでも一緒に食べない?」

「……ふぅーーん?」

まあ、殺し合いになりかねない敵の目の前で酒を飲むのは流石にないからな。

「ま、いいでしょ。この辺でアタシのオススメのお店だったらぁ……」

はい、ダメ。俺はイエローカードを1枚取り出す。

「お前は一服盛るヤツだろ……二度目はねえぞ、美作」

「あらぁ、残念。随分と信用がないみたい」

そりゃ、裸に剥かれて知らないベッドで目が覚めたら縛られてたらそうもなるだろ。俺は確かに社会的信用はゼロだ。だが、この男は俺からの信用がゼロ。

どちらが正しいかなんて、火を見るより明らかだ。

「鏡を見てモノを言え、嘘吐きオカマ野郎」

「世の全てを虜にする美貌しか映らないわ、うふふ」

タワゴトに取り合うだけ無駄なんで、無視して。

「ってわけで、今から三名で予約取るわ。……お前の好みは」

「なんでもイケるけどぉ、フレンチの気分かしら」

「知ったこっちゃねえから和食にする。天ぷらと刺身が美味しいそうだ。いいかな、りんご」

俺が気にかけているのは彼女だけだ。そこのサイコはやれやれって首を傾げているが。

一緒の飯を食ってやると言うだけ譲歩だろ。

コイツが俺にしでかしてくれたトラウマもののデートと拉致、殺人未遂については絶対に許さねえ。

「うんっ。楽しみ!」

怒りが消し飛ぶような、眩しい笑顔が俺の心を癒してくれる。

それでまあ、ここまでが打ち合わせ通りである。

先輩が紹介してくれた、ヤツの魔の手が及ばない。完全に中立の立場を保って会話の場を提供してくれる店を選んだ。

先輩の伝手でこっちに味方してくれる店を選べばいいと思ったのだが、そこをつっついてみたら。

美作のようなヤツは勘が鋭い。違和感を抱けば即座に見送り次の機会を狙ってくるだろう、と言う助言が来た。

まあ、詐欺師なんて言うヤツの処世術、立ち回りにおいて嗅覚は大事なんだろう。年中花粉症みたいに鼻の死んでる探偵とは違って。

「今日この後、予約したいんですけど。18時過ぎに3名で、氷室探偵事務所でお願いします」

ってわけで。

「清明って和食屋に予約をとった。夕方の6時からだ。逃げるなよ? ……あと、美作。お前にまだ言っていなかったことがある」

俺は、この場をさっさとスムーズに立ち去るために。

「俺の名前は氷室正義だ! 覚えとけ」

側に置いてあった粉末消化器を氷の弾丸で貫き。

冷気を支配。即席の冷たい煙幕を張り、青森りんごの手を引いてスタコラサッサと逃げ出した。

名乗った事については俺の意思表示だ。

事なかれ主義。厄介事は御免だ。

そう言う考えがどこかにあったのは否めない。

アイツに命を狙われていたのは知っているが。

もう、逃げるつもりはない。向き合わなきゃならない、俺のやんなきゃならない事の一つ。

ケジメだって言うことの意思表示だった。


「……って訳でパセリン。デート大作戦、ジェラシートラップでオカマ野郎を誘い出そう。順調に行きました」

「うん。……お兄ちゃんとのデート、これで終わり?」

俺の顔を見ようとすると、自然と見上げる形の上目遣いになるキュートな彼女の眼差しに。俺はキュンと胸が締め付けられた。抱きしめたいよ、この妹系お姉さん。

そう思って彼女の肩を寄せようと力を込めようとしたところ。……邪魔が入った。

「オーナー、離れて下さい。……もう、この男の役割は終えたはず」

「ミドリちゃん! あれ。ボク、呼んだっけ?」

パセリンの半身とも呼べる、守護者が俺と彼女の間に物理的に割って入った。

「……ゴミ虫、一つ忠告しておいてあげます」

「なんだ?」

俺の天敵系女子が優しい口調でこう唱えた。

「あまり調子に乗るなよ」

「ほぅ……」

どの口が言うかねぇ、と思ってはみたが。

まあ、でもいい頃合いだ。

「名残惜しいくらいがいいデートなんですよ。……もしよかったら、アレ抜きにまた遊んでください」

俺は、薄々わかっていた。

次なんて、きっとないだろうってことくらい。

この戦いも、既に半数近い同士が道半ばで斃れた。

ぶつかり合うことは避けたいと思っていても。

欲望の石を巡る戦いの終わりが近付いている。その事実が意味することを考えれば、暢気なデートなんてきっともう出来ないだろう。

「今日はありがとうお兄ちゃん。楽しかったよ」

「まだ、終わってないですって。これからが本番です。一旦ここで解散して、現地集合。……ミドリ、お前。美作相手に油断するんじゃねえぞ?」

「……あなたに心配されるとは心外ですね。ポンコツのパートナーに足を引っ張られてるあなたに」



大好きで、憧れていた年上のお姉さんと。

大嫌いで、反吐が出る気持ち悪い同い年のオカマ。

俺はどこか似通った部分を感じていた。

2人とも、純粋なのだ。善意か、悪意に向くベクトルが正反対なだけで。


次回。ヤツとまた同じ釜の飯を食う。

来週は休載になります。更新は再来週です

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