やりたいことがなんでも叶う魔法の石を拾いました

〜素寒貧探偵の拾ったダイヤモンド〜
我才文章
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シーン6 ルー語で学ぶ、ぼくらの欲望

公開日時: 2021年12月11日(土) 09:10
文字数:3,790

夕闇が辺りを包み込むような、そんな暗闇の中に。

目の前に、闇の中をも照らすほどきれいな銀髪の幼い女の子がいた。

見た目、小学校を卒業した程度の小さい女の子。

それくらいの身の丈、表情のあどけなさ。

黙っていたら、彼女は相当の美少女だろう。大きくなったら美人になる。

誤解を生みそうな表現になるが、今でも十分かわいい。好み、の部類に入る。

しかし、どうにもその奇抜と言うか、目を引く恰好はやめていただきたいものだ。

青と白で、まるで乳製品の有名メーカーのロゴのような雪の紋様を散りばめた着物。

凄く格式高そうな雰囲気で、庶民には縁遠そう。

レンタル着物・紋付袴よりワンランク以上は上だと思う豪奢にして上品な着物を着ている。


「ヘイッ!」


そんな少女が一言だけ、口を開いた途端にこれです。

黙っていたらかわいい。……しかし。なんだ、この気の抜ける独特な喋り口は。

「……やめてくれませんか。あなたのような小さな女の子に構うと厄介になる」

「厄介? ワッツハプン? 何が起きるデス?」

「ポリスの厄介に」

特に考慮すべきは年齢差である。兄妹、で通用すればいいのだが。

流石に無理であろう。服装の趣味がまるで違う。

ってか、微妙に影響されて。中途半端に英語混ぜちまった。

「ノープロブレム! ダイジョブ、ダイジョーブ。オールライ、オーライ」

「こんな遅い時間にうろついてると、親御さんが心配しますよ……」

正直に言うと、なんとなく。

この子の正体には勘づき始めている。

「言ったでしょ……。アイ・アム・ユア・ガーディアン」

「ガーディアン、って海外の新聞会社だっけ。当然、俺の所有物じゃないぞ」

「ノン! ガーディアンって言うのは。つまり、私が貴方を御守り致します」

おい、日本語がすげえ流暢だったぞ。今。

お前のその語り口は失敗じゃねえのか。キャラ作りにしても猛烈に滑ってるぞ。

「ちなみに。望めば、ドロン! すぐ消えます」

と、彼女が言うやいなや。姿も突如消えて、気配すら感じなくなった。


「……ふぅ、疲れた」

「ホワイ?」

背後から声がした。……うわあ、びっくりした。とさえ、思わない。

薄々気付いている。何もない場所から、唐突に出現した『男』がいたのが記憶に新しい。

なので、率直に聞いてみる。

「お前……のどかさんの傍にいたあの赤毛のあんちゃんの同類だろ……」

死人に化ける……宇宙人? レイズデッドに襲われた時、のどかさんと一緒にいたその男。

あと、のどかさんもまた……妙に気になる宝石を身に付けていた。

「ノドカ? フー? 誰?」

「おそらく……このダイヤと同じ種類の石の持ち主。会ったことがあるんだ」

この言葉を聞いた途端に、ものすごく食い気味に少女は近付く。

「ヘイヘイッ! それはつまり……ユア・エネミー! マイ・オーナーの敵では?」

「……お前さ、質問に質問で返すの? 疑問文に疑問文で答えるとテストで0点らしいぞ」

「オー……なら。イエス、だと思います。ハイ」

「どうでもよくはないけど、お前面倒なやつだな……」

案内役は私ではない、とかなんとか言って消え去った水尾真琴の姿をした何者か。

その直後に現れたのが、コイツである。案内役とか言ってしち面倒くさいわ。

「で、だ……えっと、戦いがどうだの、ようわからん。……で、お前が教えてくれる。それで合ってる?」

「オフコース! わからないことは何でも! 何でもリッスントゥミー! わかる範囲でお答えします」

「えっ……チェンジで」

不安しかない邂逅。短い付き合いになるが、本当に。

コイツを相棒として……石を巡る戦いとか言うものに首を突っ込むことになる。

その初日の出会いとしては、こんなところなわけだった。


……と、言ったところで。

事務所に戻ってきた。

面倒くさい語り口で、フブキと言う案内役……守護者たるガーディアンから聞き出したことを色々まとめよう。

欲望の魔石、デザイアストーンと言うもの。偶然手に入れた宝石。

これは、平たく言うと『何でも叶えられる石』と言う話だ。

なんと、強く念じれば金が手に入る。と言うくらい何でも叶える力があるとのこと。

何もないところから金が出てくると言う光景は、……つい、先ほど目の当たりにしたばかりだ。

それでもって、いわゆる『帳尻』は合っている状態の現金。

出所は確かに不明なのだが、犯罪組織の裏金のように資金洗浄マネーロンダリングを気にする必要はないようだ。

いや、明らかに不信な金やんけ、と思わないわけではないが。……先ほどののどかさんから渡された福沢諭吉も、おそらくそういう願いから生み出されたお金である。

それ以外にも、色々と念じるだけでも出来ることはたくさんあるらしい。割愛するが。


「ヒューマンビーイング……人間が持ってる『欲』には、二通りの欲があるのデス」

フブキに言われた、二通りの欲。欲求と、そして本質的な欲望の二通りだ、と言う話だ。

欲求と呼ばれる欲。それは、人間でなかろうと、誰しもが本能として持ち合わせている生物的な欲求。

食欲、睡眠欲、性欲……。三大欲求と呼ばれるものに、付随するような欲求。

「快楽に溺れ、怠惰に耽る。……即物的な欲求。それもまた、生物としての本能に刷り込まれている刹那的な願望」

人間のみならず、生物であれば少なからず誰しもが持ち合わせている、逃れ得ぬ欲求。

「確かに、俺の空腹感は常に満たされることはないし、逃れられぬ宿業……カルマなのかもしれない」

「オーナー……ちゃんとご飯食べて」

生物としての本能が求める、欲。すなわち欲求。それが一つ目の欲であると言う。

「欲求を満たすこと、それは決して悪いことではないのデス。バット……それだけを求めるのではモンキーとイコール」

「……猿同然ってか。辛辣だけど、まあ言わんとすることは分かる気がする」

で、もう一通りの欲とやらについては。

「自分にしか持ちえない願望。自分セルフ自分マイセルフたらしめる存在意義レゾンデートル。夢、希望、願望、野望。承認欲求、自己実現、出世、向上心、野心、野望。……なりたいものに、なる。叶えたいことを叶える。他の誰でもない、自分自身が叶えたいと願うこと。それが、欲望」


そして、譲れない自身の欲望とやらを叶えるが為に、より大きな願いの力を集めるため、所有者は衝突する。

叶えたい願いが大きければ大きいほど、より大きな願いの力が必要になる。

欲望を実現させるほどの強大な力を宿す場所。そこにたどり着く為には……。

十二の願いの石を集めなければならない。そして、叶えられる願いはたった一つだと言う。

「約束の地へ。……そして、叶えるべき欲望を導いた守護者もまた、悲願が成就するのデス」

「……ガーディアン。お前みたいなのもあと10人はいるんだな。……ちなみに悲願ってなんだ」

水原のどかの守護者は見た。なら、あと10……小学生の算数なので、間違いようもない。

「アイシンク……思うにオーナーが聞いてもつまらないことだと」

「いや、……一応お前を理解するのにあたって、必要だと思うから聞いとく」

ちょっと、これは聞いてみて少しこみあげてくるものがあった。

「守護者は、作り物。願いの石が持つ力が生み出した、作り物に過ぎないのデス……。だけど、アイムヒアー! 私は、フブキ……と言うガーディアンはここにいる! それが、紛い物でもなく、作り物でもない。一つの生命として、命として! そこにあることを認めてもらう。……新しい命を、与えてもらう。その為に、ガーディアンはオーナーを勝利に導くため。生み出されたその身を盾に、剣に。ただ、尽くすのみなのデス」

「いや、お前はそこにいるだろ……? そんなに自分を卑下しないでも」

「いないデス。……所有者にとっての道具ツール。あるいはただの武器アームズ

「だけど! お前とこうして話だってしてるし……」

なんだろう。しょうもないヤツだと思ってはいたが。

「オーナー……私を含めた他の同類ガーディアンは、所有者オーナーの傍にしかいられないし。自分の意志で判断も、動くこともインポッシブル……。そんなのはゴーストとセイム。幽霊と一緒デス……」

この話を聞いて、本音が漏れた。

「……馬鹿げてる」

「ホワイ?」

「お前は、お前だろ。……不本意だけど、もう。二度とチェンジだなんて口にはしない」

フブキは、この言葉を聞いた途端に、目から滝のように涙を流し、鼻汁を流しながら抱き着いてきた。

「マイオーナー! センキュー! センキューベリーベリーベリー! ベリーマッチ! アイムグラッドトゥーミーチュー!」

「おい! 離れろ! ……まだ洗濯して2日目の服だし汁をくっつけるな!」

その発言を聞いた途端、うるさいくらい泣き喚いていた幼女は……。

「リアリィ? ……ばっちぃし、臭い」

刹那で泣き止んだ。

「畜生が……」

前言を撤回するのは、男らしくない。

ジェンダーがどうだのと言われているこのご時世ではあるが。

チェンジで、と口走りそうになるくらい少しイラッとしたのは本当のことである。


「バット……マイオーナーはトゥーカインド……優しすぎる。その優しさは、きっとオーナー自身を傷付けることになる」

「ん……なんか言ったか?」


よくわからない。結局、自分が何をしたいかとか。

死人の姿を借りたバケモノとか、所有者同士は争う運命だとか。

明日になれば、もっとわかるだろう。

明日になれば、きっと決められるだろう。

そう言った、呑気な考えを持っている自分自身の甘さを呪いたくなるほど。

決断の時も、転機もすぐに訪れることになる。

止められない運命の奔流は、待ってはくれないことを知らずにいた。

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