奇縁で結ばれた者の奇妙な晩餐。
食事を終えた俺達は、美作と別れた。
……その、筈だったが。
ヤツは嘘吐きだ。
「……危ない!」
俺はパセリンを身を挺してパセリンを庇う。
何が来たかって、恒例のレーザービームだ。
キョトンと言う表現がお似合いの、呆然としている彼女をよそ目に俺は悪態を吐いた。
光芒は闇を照らしながらも、閃光の矢尻は虚空を貫いただけ。
今のところ、俺たちは無傷だった。
「やっぱりお前は! お前だけは! 俺がきっちりぶちのめさねえといけねえみたいだな!」
「あらあらァん? 流石ねぇ、ダーリン。ばっちり気配も姿も消してたつもりだけど、どうしてわかったの?」
「お前があのまま姿を消すって言うのがどうにも不自然に思えてならなかったんだよ!」
氷室正義と美作陽。
悪意に満ちた殺人鬼と独善で動く探偵。
こう言う風なこと小っ恥ずかしくてあんまり言いたくはないが、俺とヤツは宿敵と呼ぶに相応しい関係なのだろう。
そして、ヤツは仕掛けてきた。
俺がヤツに対して嫌悪感と言う感情。
ヤツは俺に対して執着と言う悪感情。
互いに抱く感情は違えども。
ただ、一つ言えることは。
「お前との関係も、ここで終わらせてもらう!」
俺は手にスサノオを装着。既に臨戦態勢。
「せっかちねぇ。……アタシってば四六時中ダーリンのコト考えてたの。デートをするなら、ダーリンが得意なコトと。苦手なコト。色々考えていたんだけどね」
俺の得意とする冷気に対する対策。
それを、相当念入りに案じていたらしい。
ヤツの俺への執着は本物なんだと言うことを改めて痛感するハメになった。……具体的に言えば。
ゾッとするもんを見た。
「……は?」
「光と言うものを拡大解釈すれば、眼前に映るその全て。瞳に映る世界そのものが光、と言ってもいいわね」
何を言いたいんだかさっぱりだったが、コイツに対する勝ち筋ってヤツを見失いそうなレベルで。……背筋が凍るほどの恐怖を感じてしまった。
「ああ、ダーリン。今更だけど、あの時のクイズの正解を教えてアゲル。概ね正解って言ったけど、アタシが支配する『光』って言うものの特性は。いわば……表と裏の二面性があるのね」
何言ってるんだコイツ。欲望の石の属性は、1つにつき1つだろ。
「アタシにとっての真実を映し出す《予見》は言わば表面。そして、鏡面に当たる部分の時の支配……アナタに特別に教えてアゲル」
おったまげな力を披露してくださった。……1人で2つの時の支配を使えるなんて……なんて卑怯。ズルだろ。
「鏡写しの支配、《模倣》って言うの」
俺は目の当たりにした光景を見て。
のどかさんの授業を、久しぶりに思い出していた。
「お前の凍結の金剛石でも火を支配することは出来る。だが、その効率は……」
俺が目の当たりにしたモンは、光を支配して生み出された炎熱のエネルギーの塊。
流石に水原のどかの精度、練度には遥かに劣るものの。
ヤツが作り出したのは紛れもなく炎だった。
「あ、ちなみにだけど。……ダーリンにアタシの秘密教えてあげた理由、わかるかしら?」
俺は、最悪の答えを先読みする。
「欲望の石の属性、支配の属性だけじゃなく……時の支配も真似出来る、ってか?」
「あらあら、大正解。推理も冴えてるのねぇ。……事象の支配なんかは別に直接見なくたって使えるんだけど。直接体感したり、目の当たりに出来たら時の支配も真似出来るわ。……試してみる?」
邪悪な笑みを浮かべる野郎がウィンクを飛ばしてきた。……キッツい!
いや、なんだそれ。
どうやってこんな相手に勝てるんだよ。
頭悪いけど、フィジカル特化でゴリ押しすれば勝ち目が出てくるか? 桐生健美……あの子がコイツを倒しておいてくれたらよかったのに。
と言うことはですね。
アイツを倒す為には、先読みレーザービームを攻略すればいいだけだって思っていたが。
それだけでも相当苦戦するだろうと踏んでいた。
でも実態はヤツが言うには何でも出来るし、こっちが時の支配使ったら対抗するし。炎も使える万能選手だよ?
俺は時間停止と言う切り札があるから大丈夫だろ。
そう思っていたけど。アイツの前で使ったら、それ真似するよ? と言う始末。
俺は時間停止を封じられた上で、先読みして炎を撃ち込んでくる相手に氷だけで対応しなきゃならない、と。
なんだそのクソゲー! ゲームバランスおかしいだろ。
練度や精度まで真似出来ないと言う部分で言えば、仮にのどかさんがヤツと戦ったとして。ヤツに水を使われても《加速》と熟練した火の支配で対抗出来るだろう。
俺の場合、誰が使おうと時間が止まるって言うのは一緒だと思う。使いこなすって言うにも体の負荷に慣れるくらいで、大して変わらないと思う。
ってかさ。俺の出会う所有者って、能力無効化してきたり、そもそも効かなかったり、終いには真似される? 聞いてねえよ、そんなの。
天下のダイヤモンドは最強じゃねえのかよ。
あー! 俺も光属性が良かった!
火でも、雷でも! 闇に目覚めるのもよかった。
なんだよ冷気。そんなに強くねえじゃねえか!
まあ不満ぶちまけた所で、俺の能力は氷のままなんだけどさ。
打つ手なし、詰みです。チェックメイトか……。
そんな絶望感を抱えていた俺の隣から、声がする。
「お兄ちゃん。さっきはボクを守ってくれてありがとう。……でも、諦めちゃダメだよ」
「あらあらァん? まーだいたの、カマトト女。ダーリンのハートを撃ち抜いた後、その綺麗な顔をフッ飛ばしてやるから、大人しく……」
「キミに、素直に負けてあげるつもりはないよ!」
俺とヤツの対話を聞いていなかったはずはない。
だが、躊躇うことなく彼女のコノハナサクヤの実現武装の緑柱石の輝きが増したのを目の当たりにする。
「ぬぅああ〜……にぃい〜? ひぃいとぉお〜ぬぉ〜……!?」
俺は、彼女の時の支配である《遅延》の名が示す通りの。まるでスロー再生をしたかのように動き、言葉が間延びしている美作の様子を見て、理由はよくわからないものの確信した。
ヤツに対して、青森りんごの時の支配は通用する。
「ボクの持つ大地の支配なら。……自然の力は光を糧にその大きさを増してきた。……もしかしたら、と思ったんだけど。光の天敵は土だったんだね」
魔法少女は殺人鬼を前にしても、まったく恐れることもなく立ち向かう。
さながらヒロイン。そしてまたも俺は、蚊帳の外にいるような気がしてきた。
俺が、アイツを倒すって鼻息荒くしてたのにこの始末。まったくもって相変わらずだな。
植物の力。光で生み出す炎熱モドキに対して。
「植物が光合成を活発に行う為には、二酸化炭素と水だけじゃなくって。少しの熱と、当然明るさが必要だね」
本家本元、水原のどかが扱う猛火の紅玉ならばまだしも、光が生み出した炎モドキは、熱と光に分解されて植物の糧になってしまった。
「チッ……今が朝なら、負ける筈がねえのに」
ヤツが負け惜しみを言うものの。
そう言われてみりゃ、光なのになんでコイツと戦うタイミングが都合よく日没後だったんだろう。
「輝け、アマテラス!」
そうだ、辺り一面を強烈過ぎる光で包み込む閃光弾のような真似を。ヤツは使うことが出来……。
「植物で包み込め!」
ニョキニョキと伸びた太い幹が、俺達へ襲いかかる閃光を遮る壁となった。
強烈な光。それと火が生み出した高温と、二酸化炭素。
……植物が力を発揮するのに絶好の好機となる。
ここにきて美作はずっと執着してきた俺への対抗意識よりも。
完封されつつある妹系お姉さんに意識を向けはじめた。
そして俺は、彼女への奇襲を防いだ以外の何の目立つ活躍を一切していない。
ああ……うん。まさか、こんな展開になるとは思っていなかった。次は、俺が大活躍する筈だから期待していて欲しい。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!