やりたいことがなんでも叶う魔法の石を拾いました

〜素寒貧探偵の拾ったダイヤモンド〜
我才文章
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シーン19 ヘッドハンティングされるほどの優秀な人材

公開日時: 2022年7月18日(月) 00:09
文字数:3,402

浅倉総合病院。最先端の医療、化学、薬学、魔学技術が結集している、龍鏡区はおろか、戸有市内でも有数の医療施設。俺は何故かこんな不相応な場所にいる。

健康保険に加入していた覚えがないくらいだ。

そもそも、自己負担どうこう以前に寝て治らないようなでかい病気にかかったら素直にくたばろうかなって思っていた程度の適当さ加減で生きてきたくらいだし。

定期健診さえ、確か受けてなかったな。

そんな病院と言う場所に無縁の人物である俺が。

何故、こんな場所にいるのか。

「やぁ、お待たせしてしまったかな?」

白衣を着た長身痩躯の男。眼鏡もかけていて理知的に映る。嫌味な知性を感じるイケメン。敵だな。

年齢は相応に若く見えるな。30代半ばくらいだろうか?

「……いえ、特には」

「君には感謝しているよ。……善意の通報がなければ、貴重な才能がまた一つ失われてしまう所だったのだから」

そう、俺はたまたま善意による通報にて救急車を呼んだ。それだけの話。

「いやはや、彼女の容体もまた。猶予が幾許もない状態にあった」

「いや。別に知り合いとかそう言う訳でもない。単なる通行人に過ぎない訳ですから。ぶっちゃけ、死んでたらそれはそれで、まあ……って感じなんだけども」

なんだったら死んでもらっても不安要素は減ると言う部分もあったので、どっちでもよかった。辛辣だが本音はこうです。

「とは言え、君の善意は結果としては正しかったよ」

一見、誠実そうで。気さくに話すこの男。

この第一印象が節穴であることに気付くまでに時間はかからなかった。

「ああ、そうそう。名乗るのが遅れたね。Mr.ダイヤモンド? 僕は薬師寺誠也だ。マサムネグループの才能開発企画統括主任、研究開発部門のプロジェクトリーダーを務めている」

……は? 医者が説明に来たんだと思ったら、何言い出してやがるんだコイツ。白衣を着ている訳だから担当の医者だと思うのが普通だが。話が読めなくなってきた。

そして、コイツは俺に対してミスターダイヤモンドと言い放った訳で。欲望の石の関係者なのか?

「Mr.ダイヤモンド。僕は君達、欲望の石の所有者が繰り広げる無益な争いを嘆き、貴重な才能が失われて行くのが耐え難く。この場で少し相互理解の為に話をする場を与えて貰いたくって挨拶に来た次第さ。ああ、そうそう。レディ・ハーミットは元気かな?」

「レディ……なんだって?」

「君の慕う先輩のことさ。君は彼女が葉隠姓の頃からの付き合いなんだろう?」

この男、どこまで俺のことを知っているんだ?

「おい、ちょっと待て! なんで俺だけの事ならまだしも、先輩の事まで……」

「それはそうだろう。彼女は世界的に有名だ。是非とも我が社にてその辣腕を奮ってもらいたいと思うほどの逸材だからね……。でも彼女に嫌われている自覚はあるから、どうにも無理強いなんか出来ないけど。本当なら仲良くしたいところではある」

胡散臭さ全開! うわぁ……。

「何者だよ、アンタ」

「それを含めて、今後の話をしたくってやってきたんだ。お会い出来て、本当に光栄だよ。Mr.ダイヤモンド」

パッとしない半分ニートの胡散臭い自営業、探偵。

「我が社にて、幹部待遇を約束するよ。マサムネグループに興味はないかい?」

俺はヘッドハンティングと言うものはドラマや映画の中にしかない、架空のものだし。そう言うものとは一切無縁だと思っていたが。

「給料は?」

財布の中身が膨らむのなら話を聞くくらいは……。

「ハハッ! 興味を持っていただけたようで光栄だ。給与は本来は年俸制だが、試用研修期間は日給で支払うことになる。満足いただけるか不安だが……これっぽっちだよ」

ピースサインを、人差し指と中指の二本を立てて見せた。

「日給で……二千円!? どんなブラックバイトだよ」

「えぇ……? 幹部待遇で流石にそれはないかな……」

困惑した表情を見せるこの男。

しかし、なんでコイツと会うことになったかと言えば。


俺はパセリンのアドバイスに従って、人生相談のつもりで訪れた占い師のもと。

「フブキ!」

「オーナー! ずっとニアにいた気がする割になんかやけにロングタイム!」

「久々にうるさく感じるが敵だ! 気をつけろ!」

黒坂美影、手塚の姉と呼ばれる占い師。

手塚はまあ、地名だ。この辺は手塚ってビジネス街。知り合いの手塚さんの姉が黒坂と言う訳ではない。ややこしい!

そこを縄張りに占いって稼業をやりながら、副業で所有者をやって、一山当てようって山師か。

占い師も博打みたいなモンだな! 偏見がかなりの割合占めてる悪態です。不快に思われたならごめんなさい。


既に人生相談どころの話ではない。いきなり襲いかかって来るとは。

「くそ。いきなり襲いかかって来やがって。クチコミで悪評広げてやろうかこんにゃろうめ!」

「……好きにするがいい。この場を生きて帰れると言うのならばな」

にしても、妙だ。

ヤツの攻撃が見えない。そう、見えないのだ。

不可視の攻撃。死角から何かが襲いかかってくるのはなんとなくわかるが。……その手段が見えてこない。

この薄暗い場所。果たして視界が悪いせい、と言う問題だけだろうか?

所有者同士の戦いにおいて、自分の得意とするフィールドに誘き寄せるのは定石の一つだ。

のどかさんがかつて俺に言ったありがたいアドバイス。

そして、俺は以前。似たような……。

「お前は影や暗闇そのものを実体化させて操る闇使い。なんてオチか?」

「隠すほどのこともないし、先程告げた通りだ。闇の使者であると。……さあ、我が闇の力に呑まれよ!」

姉キャラどころじゃなく、中二病患者でした。

「……俺はアンタに、相談があって! 職業人としてのプライドとかねえのかよ!」

「悪く思うな。何せ、時間がないのだ……」

悪意がビシビシと伝わってくるが、それだけではなかった。何というか、すごい。必死さもある。

時間がない、という言い回し。何を背負ってこの戦いに身を投じたか。俺の知ったことではないけれど。

攻撃手段そのものが目に映らない。何せ、『闇』と言う概念そのものを固めて打ち出して来る訳なのだから。

ただ、光速のスピードとか。雷速の攻撃を掻い潜って来た俺にとって。状況としては不利ではあるものの、そもそものダメージはそこまでデカくはない。

「我が使い魔のヤミよ。……奴等の能力は取るに足らない。このまま押し切るぞ」

脳内にイマジナリーフレンドでもいるのか? と言うくらいに痛々しいものの。敵対する所有者の目にも映らない不可視の守護者がどっかに先程からいたんでしょうね。

「貴様等も終焉を迎える。実現武装ツクヨミの力に恐れ慄き、底知れぬ深淵の闇に喰われる時だ」

周囲の闇が一層濃くなっていき、視界がもう闇。周囲が本当に真っ暗になっていく。これはアレだな。

アマテラス、あの変態野郎の逆パターンの能力。

「……うわ、マジか」

真っ暗な闇が、色濃い漆黒の闇の中。光を奪うことで逆に更に一層はっきりと見える。

闇の剣、闇の鎌、闇の鞭。なんか、影が実体化して襲いかかってくるかのように。

「フブキ、実現武装。そして間髪入れずに切り札行くぞ?」

「オーライ、マイオーナー」

この薄暗い路地裏って場所自体が不利なんだ。

ここで奴等の遊びに付き合ってやる義理はない。

さっさと来た方向から帰れば、開けた場所に戻れるはず。多少疲れたとしても、地の利を活かしてなす術もなくボッコボコにされるよりはマシだ。

行くぜ、《凍結フリーズ


俺の目論み通り、まんまと逃げ仰せ……。

あれ、あの影。動き止まってなくない?

「闇とは塗り潰す力。闇の前に支配など出来ると思うな。我が時の支配クロノスは《打消キャンセル》……」

影と暗闇を塗り固めた武器が次々と、俺に襲いかかる。

いや、何? なんなのコイツ。イロモノ系かと思いきやめちゃくちゃ強いじゃん。

「終わりだ……」

と、ヤツが告げたかと思えば。

このストリートファイトも呆気ない幕切れを迎えた。

「えぇ……?」

俺は困惑していた。迷惑千万にもほどがあったが。

バタン、と音を立てて彼女が倒れたのだ。

俺、今回は氷の粒さえ作り出してもいない。

野郎、勝手に倒れやがった。

「オーナー! フィニッシュを!」

俺はフブキをどっかにしまうと。懐からマグホを取り出して。

「火事ですか? 救急ですか?」

「救急です。通りがかり人が倒れていました」

そして、冒頭に続く。

しかし、俺は善意と言うものがいかに容易く踏みにじられるもので、いかに脆いかを知らず。

世界は優しくあるものと信じていた愚かさを責めることになる。

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