『十二天刀』とはこの世界で最も最強の刀である。
それぞれの刀の名前は誰も知らない。
この世界が創造された時から存在するらしい。
古い文献にわずかな情報だけが記載されていた。
この12本の刀は、12の天神が世界に落としたとされている。
どのような理由で落としたのかは明らかになっていないらしい。
それぞれの刀には天部の力か備わっている。
しかし、その力についてもわかっていない。
なにせ、この刀を使いこなした者は誰もいないのだから。
けど、俺は確信していることがある。
この刀を使いこなせる者がいるとすれば、それは日本から転生した者だけだということだ。
なぜかって?
それは、この刀の形状が全て俺の知っている日本刀の形とそっくりだからだ。
「お父さん、日本刀を知っている?」
「日本刀? なんだそれは?」
どうやら、テュールは日本刀を知らないらしい。
この世界には日本という国は無いのだから当然か。
俺は、12本の刀が刺さっている場所まで行き、手前に見える1本の刀を触った。
その刀は刀長が70cmで柄と鞘の色は紅葉色。
刀の刃文は細い焼き幅になっており、細直刃と呼ばれる繊細なデザインをしている。
棟と呼ばれる刀身の背にあたる部分は丸くなっていることから、反りのある太刀に多く見られる特徴をもっていることがわかる。
俺はこの刀の美しさに魅了され、我を失いそうだった。
「リグ? リグ!」
「・・・・・・え?」
「しっかりしろ!」
気づけば俺はその刀に夢中で本当に我を忘れていた。
テュールの声で目が覚めたのは幸いだった。
「リグ。ごめんな」
「なぜ謝るの?」
「俺はお前に剣術を極めて欲しいと思ってる。今日はそのきっかけを与えようと思ってお前をここに連れてきたのだが、まだ早かったな。すまない」
テュールは少し申し訳なさそうな顔を俺に見せた。
こんな顔をする父親を俺は初めて見る。
前世でクズニートだった俺は、両親から呆れられていた。
特に父親は俺が20歳になって以降、まともに話しかけてくれなかった。
今さら、クズニートになった俺にかける言葉なんてなかったのかもしれない。
けど、少しぐらいは話をしたかったという気持ちはある。
あの頃から日本刀や剣術に夢中だった俺を、あの人は温かく見守ってくれた。
だからこそ、あの時に父親へ少しでも恩返しをすればよかったと後悔している。
今のテュールは俺に自分の夢を叶えて欲しいという気持ちを伝えたかったのだろう。
ならば、その気持ちに応えるのは息子として当然だ。
前世にした過ちを反省することが今の俺にできることならば、やることは明確である。
「お父さん、僕に剣術を教えて!」
「ど、どうしたいきなり?」
「僕もいつかお父さんのような強い剣士になりたいんだ。強い剣士になってお母さんとお父さんを守りたい!」
「リグ・・・・・・。お前はまだ4歳なのにしっかりしているな」
「お父さん?」
「よし! リグ、今から父さんの動きを覚えろ! 俺の動きを何度も見て、5歳になってからは実際にその剣術を会得してもらう」
「は、はい!」
「よし、いい返事だ。ではさっそく始める」
テュールはいつの間にか元気になった。
そのことを嬉しく思うのは当たり前だよな。
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剣術には源がある。それが五行だ。
五行とは、火・水・木・金・土 の5種類の元素。
この世界には五つの流派があるらしい。
これらの流派は五行(木・火・土・金・水)に分類される。
一つ目は朱雀流
火属性
この剣術は、殺戮の火でどんな存在も焼き尽くすものである。
二つ目は六合流
木属性
この流派は地震や地割れを引き起こす。
どこからでも、この剣術を一度放つだけで遠い国の地形を崩すらしい。
三つ目は玄武流
水属性
全ての攻撃を受け流し、柔軟性のある攻撃が特徴である。
他の流派よりも変幻自在の型が多い。
四つ目は白虎流
金属性
この剣術は、霊力を身体能力に注ぐことで通常の剣撃が速さと威力ともに尋常なものになる。
五つ目は天空流
土属性
この剣術は吹き飛ばすことに特化しており、攻撃範囲が広いことが特徴である。
これから俺はどの型を習得するのだろうか。
個人的には玄武流を習得したいところだ。
変幻自在であるという点はどの戦闘でも有利だと思うからだ。
テュールは俺に会得させる剣術を決めたような顔をして俺に言った。
ん? もしかして、玄武流か?
「リグ、お前には六合流を会得してもらう!」
「・・・・・・え?」
五つの流派の中で滅茶苦茶な威力をもつ剣術を練習するとは思わなかった・・・・・・。
しかし、面白そうな剣術だ。
見事に会得できるかはわからないけど覚悟はできている。
「わかりました! よろしくお願いします」
いいじゃないか。この世界に転生してから初めて剣術に触れるのだから、心が躍るのは当然だ。
俺はこれからの異世界剣術ライフに思いを馳せるのであった。
~2話の専門用語 ~
【天部(てんぶ)】
仏教において天界に住む者の総称。
天、諸天部、天部
【刃文(はもん)】
刀身に見ることができる波模様
【細直刃(ほそすぐは)】
直刃の中でも、極めて焼き幅が細い刃文
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