ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。
遥さん・鳴子さん:亘平とジーナを匿ってくれた開拓団の双子姉妹。エンジニアと占い師。
センター:支配者である猫が管理する組織。
右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長
佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。
北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者
僕は処分するものと放置するもの、それから持って逃げだすものを分けると、メダルを使って佐田さんに連絡した。もうすでに凛々子さんから何かを聞いていたのか、佐田さんはすぐに僕の部屋にやってきた。
「もうだいたい整理はついたのか」
僕は頷いた。
「昼間に出たんじゃすぐにバレる。少しでも時間をかせぐために明日の夜、出ようと思います」
佐田さんは分かっている、とういうようにうなずくと、親指でかるく額をかいた。
「ボスのところへ連れて行けばいいんだな」
「はい、それで、一つだけあらかじめ聞いておきたいことがあるんです」
僕がそう言うと、佐田さんは怪訝そうな顔をして僕を見た。
「この農場にきたとき、僕はさいしょあなたが僕を監視していると思っていた。でも、よく考えれば、あなたみたいな人間を僕に四六時中つけておく理由が見当たらない。僕みたいな間抜けな人間、もし殺そうと思ったらそれこそ農場のごろつきにやらせればいい。……なぜギャングは、あなたを僕に付けてるんです?」
佐田さんは意外そうな顔をして、そして笑いを漏らした。
「ただの間抜けにしちゃカンがいいぜ、K。ひとつ誤解がある。確かに俺はあんたを見張っちゃいるが、ギャングの仲間じゃない。依頼は斬三からだがね。だからその質問は俺に聞くな」
「斬三さんに聞けってことですね」
佐田さんはそうだ、と言うと言葉をつづけた。
「明日は宿舎の消灯と同時に出るぞ。まず処分するものを有機物処理タンクで消す。農場から出る手はずだ。北に一キロ言ったところに地上用のビアクルが手配してある。そこまで走るぞ。空気は薄いが……農作業よりゃ楽だろ」
僕は頷いた。有機物処理タンクは農場のリサイクル装置だ。エレベーター塔のすぐ横にあって、宿舎からでた食料ごみはひんぱんに係がここまで上げて、装置に投げ込んでいる。農場から出た植物の根や茎は一週間ほど乾燥させて、作業初めにそこに投げ込まれる。まず大きなものは破砕されて、下水などと一緒に発酵され、燃料になったり肥料になったりする。そこに処分するものを入れてしまえばまず足はつかないというわけだった。
処理タンクの蓋を開けるとたまらないすえた匂いがあたりに立ち込める。だからリサイクル係はいつも不人気だった。だってその日の食事が入らなくなるぐらいすさまじい匂いだからね。僕もなんどか押し付けられたけれど、まあ夢に出るくらいひどいものだよ。
農場はそういう意味では一つの閉じられた生態系だった。そこで作られた肥料を僕たちがまた畑にまくわけだからね。そして、おそらく流れ者にとって居心地がいいのもそのためだった。ここならセンターの目が行き届かないからだ。僕の不注意さえなければおそらく、もっと長くいられたのかもしれなかった。
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