ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。
センター:支配者である猫が管理する組織。
右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長
佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。
北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者
あのケンカが賭け事になったのは予定外だったけど、むしろ僕の計画にはいい影響を及ぼした。僕はなんとかして開拓団の店にこの農場で作った野菜を卸しに行く仕事をしたかった。ところがそれには大きな問題があって、農場の中ではきつくない仕事だから人気が高い。だいたいが決められたエリアを班長が持ち回りでやっていた。
だいたい、一週間に一度ほど、班長たちは気晴らしかたがた街へ野菜を卸に行く。 そのあいだ、下っ端の労働者は肥料を大量の土と均等に混ぜるいちばんきつい梳き込み作業を行うわけだ。
どもかくジーナの情報を得るためには街に出るほかなかった。それで僕は……右藤さんに泣きつくことに決めた。
ある夕食どき、僕は右藤さんに言った。右藤さんは
「右藤さん……実はお願いがあるんですが」
右藤さんはおとなしい南波さんが風邪気味で調子が悪そうなのを見て、自分のぶんの肉を少し南波さんに分けていた。右藤さんと言う人は一度仲間と思った人間には情が厚かったが、僕はやんわりと部外者のままだったけどね。
「てめえの頼みなんざ聞きたかないが、なんだ話すだけなら話してみろ」
「週一の卸の仕事を僕に代わってもらいたいんです」
これを聞いて、気弱な南波さんは心配そうに僕をちらっと見たし、プライドの高い北上さんは少し妬ましそうな目で僕を見た。
「探したい家族がいまして……」
右藤さんは少し体を引いて、僕をまじまじと見た。佐田さんはしれっとして食事を口にかき込んでいた。僕は続けて言った。
「何か情報がないか街に出てみたいんです。いまのままだと農場と宿舎の往復だけだ。休みの一日もこまごまとした仕事で過ぎてしまう。それに、知り合いもいない街にいきなり行って人が話してくれるとはとても思えない」
それを聞いて、右藤さんは片眉をあげ、疑り深いまなざしで僕をじろじろとにらみつけた。やがて佐田さんの方に向いて僕を指さしながら単刀直入に言った。
「どう思う?」
佐田さんは皿から顔も上げずにこう言った。
「図星だったんじゃねぇですか」
右藤さんが意味が分からず聞き直すと、佐田さんはようやくめんどくさそうに食事から顔を上げた。
「あのケンカのときだって、女房が逃げたんじゃねぇかって右藤さんが言ったんでしょうよ」
これを聞いてとつぜん、場の空気が僕に同情的になった。右藤さんはいきなり僕の左肩を強く二回叩いた。
「あのときはいろいろと済まなかったな、俺も虫の居所が悪くてよ。で、相手はわかってんのか。仕事を代わってやれるかは別として、手伝ってやれることなら手を貸すぜ。どの地域の情報が欲しいんだ」
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ペトゥラ・クラークの「恋のダウンタウン」、ずっと頭を流れているんだけど、1960年代の曲なのね。。。
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