ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。
センター:支配者である猫が管理する組織。
右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長
佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。
北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者
「俺に用か。何だ」
北川さんは早口にそう言った。僕はこう言った。
「さっき、農場主の部屋に例の件で行ってきたんですが……、北川さんの奥さんが来られてました。北川凛々子さんという……」
すると、北川さんまでが農場主のと全く同じように頭を抱えてしまい、僕はしばらく口をつぐむしかなかった。しかしこうも『食えない』北川さんを、一人の若い女性が簡単に困らせてしまうというのは少し滑稽だった。当の本人は困り果ててるんだから、ただ無表情を貫いたけどね。
「来たのか……。『K』、悪いがこのことは黙っていてくれないか……」
「僕は誰にも言うつもりはありませんが、北川さんの奥さんが僕に農場の案内を頼むというので、農場主が……」
「許可したのか!」
「……いえ、僕をなるべく農場にいさせないように、僕は明日から街をまわることになりました。すき込み作業の人間は別のところから補充するみたいです」
それを聞いて、北川さんはほっとして僕の肩を叩いた。まったく、北川さんはいつものプライドの高い北川さんらしくなかった。僕が話が終わったと思って立ち去ろうとすると、北川さんは本当におずおずと、僕にこう聞いた。
「……それで、凛々子は……」
僕はなんとなく、その声色だけで北川さんの本音を知った。僕だって怜の消息を心の底から知りたかったからだ。
「お元気そうでした。農場主もたじたじで」
北川さんはそこでふっと疲れた笑みを見せた。北川さんはただプライドが高くて人と話さないのだと思っていたけれど、本当は僕いじょうに緊張していたのかもしれなかった。
ともかく増産計画は好きにしていいと言われたし、街に出かけることもできるようになったわけだから、僕にとっては願ってもない状況だ。
街の食料品店に遅れている納品スケジュールだけは何とかなりそうだ、と言う話をすると、みんな本当に喜んだ。人間、喜ぶとつい口が軽くなる。そのうち、食料品店のやつらはふだん言わない愚痴まで僕に言うようになった。
ある日、南波さんと一緒に回っているときだった。いつものように商品に棚を並べていると、店長が
「なあ、おまえこれ持ってるか」
と言って僕にネコカインをふかす真似をした。確かに持ってはいたけれど、農場から給料と一緒に配給されるのはひどい品質のものだった。僕はあんまりそれが好きではなかったから、余っていたんだ。(佐田さんは何か他のクスリかなにか混ぜてしょっちゅう吸っていたけどね )
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どうでもいいけど、「みんなのうた」のぼくはくまの内容、かなり切なくないですか……。
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