ネコカイン・ジャンキー!2 ~仁義なき亘平編~

火星でのらの子猫を拾ったら特別な猫でした
スナメリ@鉄腕ゲッツ
スナメリ@鉄腕ゲッツ

第十四話 地上より愛をこめて-1

公開日時: 2021年4月15日(木) 12:17
文字数:1,183

 それから僕は十造と言う樽腹の男が監視役について、ここに流れ着いた、というわけさ……。そうだね、君にはまだ『ここ』がどこか知らせていなかった。

 『ここ』はほとんど地上だ。農業用ドームだからね。太陽の光は地球よりも弱いから、四方から照明がこうこうと照っている。それはまぶしくて容赦がないぐらいだ。

 居住区は農場のすぐ地下にある。このあいだ言ったように、せまくるしい鉄の錆びた壁に囲まれて、いい暮らしとはとても言えない。それでも食堂でありつく食事は悪くない。農場で育てた新鮮な植物を口にできるからだ。


 僕はいま開拓団地域のはずれにある、農場の下働きをしている。IDの記録ではこうだ。僕(つまりギャングからもらったIDによれば林恭介という男)は、オリンポス山のふもとのユリシーズ地溝帯の開拓団村で生まれて、出稼ぎ労働者としてこの農場に来ている。どうやら故郷には妻がいるらしいんだが、もしかしたらギャングに始末された人間のIDを渡されているのかもしれない。

 いくら信用されていても、これについて深くは聞かないようにしている。

  

 誰にも亘平だとわからないように、いまだ髪は伸ばしっぱなしだし、髭もそれほど剃らない。むさくるしい格好だけれど、ここではむしろそっちの方が目立たないんだ。なぜならここにはそんな出稼ぎ連中ばかりがそろっているからね。


 IDの遺伝子情報と、ホログラムだけは僕のものと合成されている。つまり、簡単な輸血は受けられても、iPS点滴なんかは受けられないわけだ。

 僕の右手はギャングの連れてきた手荒な医者の『骨接ぎ』で多少はマシになったけれど、まだ薬指は動きにくい。それでも仕事に支障はないよ。


 農場での仕事はほとんど肉体労働だ。生命にかかわる仕事は『開拓団』の人々だという話をしたよね。農場もその一つだ。農場の仕事にも階級があって、僕の所属しているのは下の下の方だ。

 どういう意味かって?


 僕の農場では食用の多肉植物を育てているんだけど(水が少なくて済むからね)、栄養価を高めるために肥料が必要だ。けれど、火星には植物に必要な窒素がほとんどない。


 それで……火星は高度にリサイクルしているという話はしたよね……。僕は汚水から取り出された『窒素』を畑に供給しているわけだけど……。

 まあ地球のように窒素肥料工場があるわけじゃない。僕のやっていることはもっと原始的だ。まず汚水をためてあるタンクがあって(ああ、わかってるよ、君たちの時代はそれを肥だめと言ったんだろう? それとも、もしかしたら火星の方が原始的なのかな……)、それを水分と汚泥に分ける。

 そのままだと塩分が強いから、アイスプラントという塩を取り出す多肉植物を植えてから、塩を抜き取って残りを食用サボテンやグラパラリーフに回すわけだ。

 まあ僕がやっているのはとにかくひたすら肥料を畑にまいて、育てて、それから収穫することだけだけどね。



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この回を面白いと感じた人は変人ナッカーマ!

詰まらないと感じた人は……正常です。おめでとう。。。



ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。

グンシン:亘平の勤めていた地下資源採掘会社。火星の歴史資料庫をもっている。

怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。

センター:支配者である猫が管理する組織。

オテロウ:『センター』からグンシンに来ている猫。亘平を警戒して犬を放った。

犬:『センター』が治安管理のために所有する四つ足ロボットの総称。

珠々(すず)さん:有能なオテロウの秘書。グンシン取締役の娘。亘平に思いを寄せる。

山風明日香(やまかぜあすか):亘平の母。『センター』により犯罪者として処分された。

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