ネコカイン・ジャンキー!2 ~仁義なき亘平編~

火星でのらの子猫を拾ったら特別な猫でした
スナメリ@鉄腕ゲッツ
スナメリ@鉄腕ゲッツ

第十話 命拾い-2

公開日時: 2021年4月9日(金) 12:00
更新日時: 2021年5月20日(木) 10:38
文字数:1,003

ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。

センター:支配者である猫が管理する組織。

オテロウ:『センター』からグンシンに来ている猫。亘平を警戒して犬を放った。

犬:『センター』が治安管理のために所有する四つ足ロボットの総称。

太った男は僕をじろっと見回すと、僕の汚い姿に不愉快そうな表情を浮かべてドアを閉めた。そこで僕ははじめて、はじめて大きく息をついた。ここがどこだって、ギャングの屋敷だって、火星の砂漠で過ごす夜にくらべたら天国だった。

僕は部屋にあったソファに倒れ込んだまま、気を失った。気を失うように眠ったんじゃない。ほんとうに気を失っていたんだ。僕はそれから二晩、運ばれた食事にも手を付けず、飲まず食わずでのびていたらしい。

人間も限界をこえるとどうやらコンピューターのように脳を再起動するものらしい、とそのとき知ったよ。


とにかく次に僕の意識にあったのは、喉が渇いたな、という感覚だった。そして、僕は体を起こすと、となりのテーブルに置かれた水を一気に飲み干した。そして自分が置かれている状況を思い出すまでにはちょっと時間がかかった。なんとなく自分がまだあの火星世代のコンパートメントにいるような気がしていたんだ。


僕はあの灰色のかたまりを部屋の中に探した。飾りっ気のない壁に囲まれた、ほんとに小さなコンパートメントだったけど、ジーナと一緒にくらしたあの部屋は僕の宝物だった。あさ、会社に行く支度をしていると、ジーナが邪魔をしにきてさ。かばんの中に入ったり、ものを隠したりしてね。

いつもだと起きたときに涙が伝っていたんだけれど、疲れ果てた僕の目からはもう涙も出なった。


ジーナ、と声にだしかけて、僕は自分の部屋じゃないことに気が付いた。目に入った部屋の中の家具が木材で出来ていたからだ。

木材は火星では高級品だという話はしたよね。どこの家にだって小さな木箱や椅子のひとつはある。でも、この部屋はすべてが木材でできていた。それだけで『鉄のバケツ団』がいかに力をもっているか理解できた。


 僕は部屋にとつぜんひびいた自分の大きなため息に驚いた。バカみたいだろう? ようやくすべてを思い出して、命拾いしたことを実感したんだ。


 ボスが僕の話を確認したら、僕の持っている『センター』の秘密計画の情報と引き換えに新しいIDが与えられるだろう。珠々さんは無事にしているだろうか。

 自由に行動できるようになったら、まず地上に行って隠しておいたビジネスリングや送信機が無事か確認しなければならないと思った。

 それでも僕は生きていた。お腹はぐうぐうと鳴りはじめ、テーブルの上に置かれていたパンをまるかじりした。このときほどただのパンがおいしいと思ったことはなかった。

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