ネコカイン・ジャンキー!2 ~仁義なき亘平編~

火星でのらの子猫を拾ったら特別な猫でした
スナメリ@鉄腕ゲッツ
スナメリ@鉄腕ゲッツ

第五十四話 後始末-3

公開日時: 2021年7月15日(木) 12:15
更新日時: 2022年7月7日(木) 23:04
文字数:1,156

ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。

怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。

遥さん・鳴子さん:亘平とジーナを匿ってくれた開拓団の双子姉妹。エンジニアと占い師。

センター:支配者である猫が管理する組織。


右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長

佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。

北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者

 君たちが生きている二十一世紀の地球ではどうか知らないけれど、この火星で『火薬』と言えば貴重品の部類に入る。どういうことかって……? 火星では火薬に含まれる窒素が貴重なのさ。農業をやるにも、工業をやるにも、窒素というのは必ず必要だ。だから、もちろん普通の人間が『火薬』なんてものを使うことはほぼない。

 

「ちょっと待ってろ」

 

佐田さんはそう言うと僕を置いて音のした方向に身をかがめて進んでいった。それはちょうど三部屋先の南波さんの部屋で、やがて廊下に扉の開く音がかすかに響いた。

普通、消灯後はみな内側から鍵をかけておく。だから、扉が外側から開くってこと自体が嫌な兆候だ。佐田さんは入って数秒もしないうちに出てきた。そして台車をつかむと僕を引きずるようにして部屋に引き込んだ。

 

「南波が殺された」

 

 佐田さんは低い声でそう言った。部屋には暗い照明がついていて、中には人間がひとり倒れていた。白目をむいて、驚いたように口は大きく開かれていた。顔を見たところで、すぐには南波さんと分からなかった。けれど姿かっこうは南波さん以外の誰でもない。

 静寂に音があるなら、いまはその静まりかえった音がうるさかった。たぶん数秒しかたっていなかったのだろうけど、佐田さんが僕の肩を叩いたので、僕は我に返った。

 倒れた頭のあたりからは、少量の血が流れていた。そして耳には壊れた何かのデバイス。佐田さんはそのデバイスをぬき取ると、南波さんの両肩を持ち上げながら言った。

 

「手伝え、処分品の中に入れるぞ」

 

そして僕たちは台車の処分品の中に小さな南波さんの体をなんとか押し込んだ。佐田さんは頭から流れ出た血を処分品の中の布切れで拭きとると、それを広げて南波さんの上からそっとかけた。

 

「誰がやったか知らないが、殺されたとなると追っ手がかかって厄介だ。南波は、俺と、お前と、一緒に脱走したんだ、ここから」

 

僕と佐田さんは顔を見合せて、互いに頷いた。感情的になっている暇はなかった。僕たちはただ黙々と作業をこなし、扉を閉めると、エレベーターへと急いだ。

地上に出ると、佐田さんは有機リサイクルタワーを見上げて、顎でさし示した。

 

「南波さんをここに投げ込むつもりですか」

 

僕がそう言うと、佐田さんは顔も上げずに

 

「他にどうしようがある」

 

と吐き捨てた。一番上まで来ると、佐田さんは袋を少し開けて、南波さんの顔を見た。そしてさっき血をぬぐった布切れで顔を拭いた。

僕たちは南波さんのまだ柔らかい瞼と顎を閉じてやると、袋をふたたび締めなおした。

 

 僕と佐田さんは無言で力を込めて南波さんの入った袋を持ち上げると、悪臭立ち上る処分口から処分口からその袋を投げ入れた。朝になれば自動的に装置が動き出して、何もかも木っ端みじんになるだろう。僕のガラクタと一緒に、一人の人間がそんなかたちで消えるのだ。





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