ネコカイン・ジャンキー!2 ~仁義なき亘平編~

火星でのらの子猫を拾ったら特別な猫でした
スナメリ@鉄腕ゲッツ
スナメリ@鉄腕ゲッツ

第五十三話 後始末-2

公開日時: 2021年7月14日(水) 12:15
更新日時: 2022年7月7日(木) 22:54
文字数:1,109

ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。

怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。

遥さん・鳴子さん:亘平とジーナを匿ってくれた開拓団の双子姉妹。エンジニアと占い師。

センター:支配者である猫が管理する組織。


右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長

佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。

北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者

 そして、次の日、事件が起こった。僕が農場から脱走したことかって……? 違う、南波さんが殺されたんだ。僕はその日のことを何度も思い出す。

 あのあさ、班のみんなはいつも通り集合した。僕は寝不足でひどいクマを作っていて、佐田さんは計画をおくびにも出さずひょうひょうとしていた。北川さんは何か考え込んでいる様子だったけど、僕を見るとなぜか軽く頭を下げた。南波さんはちょっと機嫌がよくて、僕の顔色が悪いことをめずらしくからかったりした。右藤さんはいつも通りの太い声でみんなに指示していた。

 僕はなるべく計画をさとられないようにみんなと話さないでいたけれど、右藤さんは何かを感じたのか、食事の時に僕のとなりに来た。といっても、ただ畑の隅で書き込むだけの昼食だ。右藤さんは僕をちらっと見ると、

 

「眠れねえのか、女房とは話はついたのか?」

 

と僕に聞いた。僕はただ短く、

 

「ええ、話はつきました、すっかりね」

 

と答えた。南波さんがそれを聞いて、

 

「しかし奇遇だなあ、あれだけ街に出て見つからなかったものが、急に訪ねてくるんだから」

 

と僕の顔をのぞき込んだ。僕はそのとき、南波さんに対してはじめて違和感を感じた。どうして南波さんは僕が街に行くというのについてくることになったのか。佐田さんならわかる。監視役だからだ。

 そして、あの街でのビアクルの故障のとき、一緒にいたのも南波さんだ。僕が思わず南波さんを凝視すると、南波さんは初めて僕をまっすぐ見返した。小さな抜け目のない眼が僕をいっしゅんにらみつけた。それはほとんど憎しみを込めたもので、僕が思わず食事の手を止めると、南波さんは不意に立ち上がって何処かへ行ってしまった。

 そしてその夜、南波さんは死んだ。

 正確に言うと、南波さんが死んでいるのを見つけたのは佐田さんだ。宿舎が消灯したあと、僕たちは廊下で落ち合った。僕は処分するものを台車に乗せていて、それは結構な大荷物だった。だって、センターがもし僕を捕まえようとするなら、遺伝情報を探すだろう。だから、僕の痕跡の残りそうなものはあらかた処分するしかなかったんだ。

都合がよかったのは、夜の廊下は電力を節約するために真っ暗だったことだ。ほとんど何も見えない中を、僕たちは壁沿いにエレベーターまで急いだ。もうほとんどエレベーターにつく、と言うところまで来て、廊下に鋭い音が響いた。(もっとも古い宿舎だから、しょっちゅうどこかが温度差で軋んだり音を立てていたけどね)

僕と佐田さんは思わず顔を見合せた。僕は誰かがまた壁を殴ったのかとおもったけれど、いま思えばそれよりも高く、何かが破裂するような音だった。すると、佐田さんがとつぜん止まって、火薬の匂いがする、と言った。



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