ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。
センター:支配者である猫が管理する組織。
右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長
佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。
北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者
女性は遠慮ない視線で僕をじろじろと見回すと、訳の分からない笑みを浮かべた。
「いいわ、おじさん、こんど『K』さんに農場を案内してもらいます。ここに来るのは『K』さんに会いに来るため、それで文句は言われないわ」
「そいつはダメです、お嬢さん……。あの男が生きてるだけありがたいと思わなきゃ……」
農場主が汗をかきながらそう説得をする横で、お嬢さんと呼ばれた女性は僕に手を伸ばしながらこう言った。
「こんにちは、『K』さん。これからあなたにちょくちょく会いに来ます。農場の案内もどうかよろしくお願いいたします」
僕が何がおこっているのか分からずに目を丸くして農場主に助けを求めると、農場主は頭を抱えながらこう言った。
「ああ、もうわしはおしまいだ……! おしまいだったら、おしまいだ!」
「申し訳ありません、ちょっと状況が呑み込めていないんですが……」
と僕が言うと、女性はこう言った。
「いいんです、あなたは農場を案内してくれるだけで。私、北川凛々子と申します。あなたの班の北上登(きたがみ のぼる)の妻です」
僕はおもわずもういちど、意味なく農場主を見た。農場主は目を閉じて頷いている。
「北川さん……北川さんの……奥さん」
「ええ、夫をよろしくお願いいたします」
そういうと、北川凛々子さんは部屋をさっそうとあとにした。僕と農場主はしばらく気が抜けていて、数分なにもしゃべらなかったと思う。そして、僕がようやく自分の仕事を思い出して、農場主に相談をはじめると、農場主はその言葉を遮って、手をふりながらこう言った。
「いい、いい、お前のすきにしろ。いまそれどころじゃない」
これは僕には好都合だったけれど、僕が部屋をでるときに農場主はさらにこう付け加えた。
「そうだ、おまえそれを口実になるべく街へ出とけ、『K』。お嬢さんと顔をあわせるんじゃないぞ、なるべく留守にしろ。代理はこっちで用意する」
これは街でジーナの情報を得たい僕には好都合だった。でもまさか好きなだけ街に出られるとはね! 宿舎にもどると、たまたま僕は宿舎のゲートのあたりで北川さんとすれ違った。でもいま思えば、そんなところで北上さんを見かけたことはなかったから、北川さんには何か目的があったのかもしれない。
どもかく、僕は北川さんと行き会ってしまったので、話しかけざるを得なかった。
「北川さん……」
北川さんは僕が声をかけると、怪訝そうな顔で僕を見た。僕がしばらくどう切り出したものか悩んでいると、北川さんはあわてたように僕を物陰に引っ張っていった。いつも冷静な北川さんらしくない行動だ 。
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美しき農場の娘は当然ながらミュラー&シューベルトタッグの「美しき水車小屋の娘」もじりですなー
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