ジーナ:僕(亘平)と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。
グンシン:亘平の勤めていた鉱物採掘会社。
センター:支配者である猫が管理する組織。
右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長
佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。
北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者
あの火事が『鉄のバケツ』団と他のギャングとの争いでないのなら、この新しい無法者たちの仕業とも考えられないか……。僕はそんなことを思いながら、電気を節約するために表通りへとハンドルを切った。そして、駅の近くの店で南波さんと一緒に荷物を店に並べると、それを最後に農場へ帰る道を選択した。
そのとき、僕は確かに予備のバッテリーが積んであることを確認していた。もしも開拓団の街で立ち往生したら、僕はたくさんの『知り合い』がいるかもしれない地域で人の目に触れることになる。もう古いビアクルでもあったしね。
南波さんは、最近よく起こる停電のせいで、夜が寒くて眠れない、とぼやいていた。それで僕は予備のバッテリーを見込んで、温度を高くして南波さんが帰り道、眠れるようにした。もちろんほとんど自動運転なんだから、僕もうとうとしたっていいわけだけど、リスクを小さくするために僕は必ず起きているようにしていた。
街に出るっていうのは、僕にとってはそれなりの緊張感を感じることなんだ。
そして事件は起きた。第四ポート駅から農場へは表通りの方が早かったので、表通りを通らざるを得なかったんだけれど、そこでバッテリーがいきなり切れたんだ。ほんとうにいきなりだったので、車を裏道にとめることもできなかった。
バッテリーが切れるのは初めてのことじゃなかったけれど、いきなり止まるというのは経験がなかった。僕は後ろからバッテリーをとってくると、切れたバッテリーと差し替えた。バッテリーの交換は挿すだけで数秒でおわるものだったから、寝ている南波さんを起こさずにそのまま車を動かそうとしたけれど、車はピクリとも反応しなかった。
街で大通りをビアクルが許可なく塞いだ場合は、三十分ほどでセンターが除去に来る。それは火星世代の街でも、開拓団の街でもおんなじだ。
ビアクルのソフトの問題かと思って、何度も立ち上げなおしたけれど、電源すらつく気配がない。十分をすぎたころから、僕は本気で焦り始めた。南波さんを起こすと、僕は車の下に潜り込んだ。グンシンで少し採掘機をいじっていたから、簡単な断線程度だったらなんとかわかる。でも工具はない。
そのうちに街の中で何人かが立ち止まり始めて、僕たちは注目を引き始めた。いまのいままで農場で安全に暮らしていたけれど、それはあまりにももろいんだってことは覚悟してたつもりだった。ここで南波さんを置いて逃げたとしても、すぐに農場の誰かに怪しいと見抜かれるのは分り切っている。
でも、ひとつだけ僕にはラッキーなことがあった。そこは、いったいどこの近くだったと思う……?
遥さんのジャンクヤードの近くだ。僕が行くわけにはいかない。そこで僕は南波さんを叩き起こした。
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