ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。
右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長
佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。
北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者
僕は店長に一本渡すと、南波さんもなぜかこっちを見ていたので南波さんにも渡した。二人はそれに火をつけると、まるでシンクロしたようにうへえ、という不味い顔をした。それで火を消した吸いさしを僕に戻すもんだからちょっと閉口したよね。
「やっぱり質がおちてやがる。最近の配給品はひどすぎてとてものめねえよ。……おい、お前のをよこせ」
そう言うと、店長は南波さんからも一本せしめた。南波さんはしぶしぶ店長に渡したけれど、それに火をつけた店長はひと吸いしてから驚いたように南波さんを見た。南波さんは薄ら笑いを浮かべて肩をすくめている。
「見かけによらねえな……。こいつは上物だ。おまえまさかギャング団から……」
「やだなあ、そんな恐ろしいこと、俺にはとてもできないよ」
南波さんが本気で震え上がって言っているのを見て、店主はもういちど、南波さんのネコカインを深く吸い込んで言った。
「好きなもん棚から持っていって良いぜ。久しぶりに吸ったぜ、こんな上物。……『鉄のバケツ団』だって最近は混ぜ物を入れてるってのに……」
僕はそれを聞いて、南波さんは近くにいたけれど、いましかあの火事の話をふることはできないと判断した。
「『鉄のバケツ団』といえば、ちょっと前にこの近くで火事を起こしたって……。ひどいことをするもんですね」
それを聞いて、店長は首を振ってこう言った。
「さあな、コンドーのオヤジ(ボスのことだね)は他のギャングの仕業だって団地の長に詫び入れたそうだぜ。相手は分からないが、『鉄のバケツ団』じゃないんだ、って。それでもギャングの信用は地に落ちたけどな。……まあそれにしたって『鉄のバケツ団』も開拓団の街を襲うし、ずいぶん緩んじまってるんじゃないのか、ケジメってものがさ……」
僕は表情を見られないようにただひたすらかがんで作業を続けながらこう言った。
「しかしなんだって団地なんて場所を選んだんだか。一歩間違えれば大惨事だ」
「……良くは知らねえが、もの好きな火星世代が住んでたって言うぜ。ネコカインでもため込んでたんじゃねえか。占い師の鳴子さんがなんだってかそいつを可愛がってたらしくて、まあ気の毒にそいつは若くで事故で死んじまったらしいんだが」
「死んだんですか」
「うん……まあ死体も出なかったらしいが、占い師が言うんだからな。まあ、とにかくここさいきん、いろんなことが守られてねえ。火星世代は開拓団の街に住む、ギャングは掟を破る、野菜は地球から届かない、それに停電ばっかり、ときたもんだ」
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狭霧消ゆる、とか夏は来ぬとか、ドイツリートにも負けない美しさだと思っている。オーケストラでやるなら狭霧なら、最初は間違いなくホルンだよね。。。
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