僕は話がどこに流れて行こうとしているのか分からずに、ただボスが僕を殺すつもりじゃないことは理解し始めていた。僕はこう言った。
「佐田さんから報告が行っていると思いますが、僕の存在がセンターにバレたかもしれません。このままだとあなた方にも迷惑をかける。僕はとりあえずここから消えるつもりです。僕にここに来るように言ったのは凛々子さんです。僕はまだ凛々子さんがなぜそう言ったのか分からないでいます……ただ、僕の知らないことがある、だからここに来い、と」
ボスはしばらくじっと僕を見ていた。そして体を横に向けるとこう言った。
「占い師の予言は当たることも外れることもある。鳴子は君が死んだと思っているし、自分の予言は間違っていたと思っているだろう。そして、どのみち結果的に間違うかもしれない」
僕は鳴子さんがたった一回だけ僕に言った、僕とジーナが火星の運命を動かすという言葉を思い返していた。あのとき僕はそれを面倒見のいい鳴子さんが僕に気を使わせないように言った『方便』だと思っていた。(じっさい、他の『開拓団』の奴らに対してもそう言う優しいところがあったからね)
でもボスはそれをどこからか聞きつけて信じているらしい。
ボスはそのままの姿勢でこう言った。
「佐田、おまえはこれからどうしたい」
佐田さんは小気味よく笑いながらこう答えた。
「この御仁が面白いことは確かでね」
「じゃあ引き受けるんだな?」
佐田さんはゆっくり頷いた。ボスは再び僕の方に体を向けてこう言った。
「君にお願いがあると言ったな」
僕はついに来たか、という気持ちで黙ってそこに立っていた。
「火星はこれから変わり始める。大きな戦いがあるだろう。もし君が……『山風亘平』が戦いのときを知ったなら……我々『鉄のバケツ団』に合図を出してくれ。『開拓団』すべてをまとめ上げるには時間がないが、すくなくとも『鉄のバケツ団』はきみと一緒に動く」
ボスは僕から視線を一瞬も外さなかった。凛々子さんのことも、鳴子さんの話もすべて含めて、いま話していることは本気だということだ。僕はこう答えた。
「わかりました、ただ凛々子さんとはよく話し合ってください。凛々子さんは北川さんを守ろうとする一人の立派な人間だ。ボスが凛々子さんをまもろうとしているのとまったく同じぐらいの勇気です」
ボスは一瞬だけ視線を落とし、こう言った。
「君が知りたがっていることはほとんど佐田が知っている、佐田に何でも聞け」
そしてそのまま佐田さんに向かって僕を連れて行くようにジェスチャーした。
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