ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。
センター:支配者である猫が管理する組織。
右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長
佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。
北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者
「東地区がいまギャングと揉めてるのはあんたも知ってるはずだ。あんたさん、いったい何を嗅ぎまわってるんですかい。もし家族のことが嘘っぱちなら、あんたギャングにやられちまうぜ」
佐田さんは僕から視線を外さずにそう言った。
「あんた、本当に家族を探しているんだろうな……? 東地区のあの事件と何か関係が……?」
「想像で物を言いたきゃボスにそう伝えるがいいさ。僕は何も嘘をついちゃいない」
僕がそう言って腹を据えて椅子に腰かけると、佐田さんは壁でタバコを押し消して懐の中にしまい込んだ。
「あんたは面白い奴だな……」
と佐田さんは言った。
そして向かいの椅子を引くと、それに浅く腰かけて身を乗り出した。僕をじろじろと見ているが、それはちょっと奇妙な感じだった。好奇心と猜疑心の混ざった見たことのない目だ。そうだ、何と言ったらいいかな。もしあの『犬』たちに目がついていたなら、こんな表情をしているだろう、そんな感じのまなざしだ。
「農場ってのはな、あんたが思う以上に危険な場所だぜ。せいぜい気をつけろよ」
しばらくして佐田さんはそう言うと、すっくと立った。そして振り返りもせずに部屋を出て行った。あんまりあっさり出て行ったので、僕はしばらく椅子に腰かけたまま、佐田さんの言葉を考えることになった。
農場が危険な場所? それは労働者『K』にとってなのか、それとも山風亘平にとってなのか……? もし『亘平』にとってなら、もしかしたら仕事を急いだほうがいいのかもしれなかった。『センター』が僕に気づいているなら、わざわざ待つようなことはしないだろう。だとすると、何かギャングの気に食わないことをやったのだろうか……?
とそこまで考えたときに、部屋がとつぜん真っ暗になった。ここのところ、ひんぱんに停電が起きていた。おそらく『センター』の計画が着々と進んでいることを意味している。
その電力はいったい何に使われているのか? 『センター』が計画していた、数千体もの『犬』の増産。あの採掘抗にこだまする『犬』の足音が農場にも近づいてきていた。
「『センター』は、最後の戦いをしかけてくる」
暗闇の中で、あの夜の怜の声がこだました。怜は元気だろうか。怜が『はじめの人々』なのか、それとも『センター』なのか、そんなことはもう関係なかった。
少なくとも僕は怜の言うことを信じる。それが嘘で、そのために命を失っても、それはそれでいい。僕はあのときの怒りに燃えた目を信じる。
僕にとっての真実はそれだけで十分なんだ。
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亘平にここまで言わせる怜(とき)とは何者か……。
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