ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
鳴子さん&遥さん:開拓団の占い師&エンジニアの双子おばさん
右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長
佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。
北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者
店を出るときに、南波さんが言いにくそうに僕にこう話しかけてきた。
「あの……、『K』、あのネコカインのこと……」
「ああ、言わないよ。農場のネコカインはひどいから、実は僕も余らせてるんだ」
「……一本いるかい、黙っててもらう代わりにさ」
「いいよ、さっき店長に一本、持っていかれたじゃないか」
それを聞いて南波さんはビアクルの中でしばらく黙っていた。僕はなにか南波さんの機嫌を損ねたかな、と思ったけど、心当たりもないのでそのままでいたら、南波さんは急に悪いと思ったのか明るい調子でこう言った。
「……それで、家族は見つかりそうかい」
今度は僕がだまる番だった。人間、あまり他人と話したくないことになると、黙るしかないらしい。南波さんは何かを察したのか、話題を変えてこう言った。
「なあ、ほんとかなあ、その占い師に気に入られてたって火星世代の話。死んじまったっていうが、もしかしてギャングに殺されたんじゃ……」
僕は内心、びくびくしながら笑い飛ばした。
「まさか!」
南波さんは急に顔を曇らせてこう言った。
「そうだよな、ギャングはああ見えて厄介ごとを嫌うしな。火星世代なんか巻き込んだ日にゃ……。ひょっとしてその男、生きてると思うかい?」
僕は答えに詰まった。必死で平静を装いながら、僕はなんとかこう言った。
「だって鳴子さんが……占い師が死んでるって言うんだろ」
南波さんは僕をちらと見ると、すぐに納得したように大きくうなずいた。
「そうだよ、占い師が言うんだからな。……オリンポスにも有名な占い師はいるのかい?」
僕はいっしゅん考えてから隙を見せずにこう言った。
「いるよ、鳴子さんってのはここらじゃ有名なのかい?」
南波さんは次の店に必要なものを整えながら言葉を濁すようにこう言った。
「まあね、どうかな、遥さんと鳴子さんってのは色々あったからね……。俺だってよく知らないよ」
僕は話題を変えようとこう言った。
「それで、街は気分転換になってるんですか、南波さんのほうは!」
南波さんは窓の外の整備の悪い道で上下にゆれる景色を見ながらこう言った。
「……そうだなあ、俺はいつだって街に出たいと思っていて、でも出るといい思い出なんか一つもないんだ。俺はいつだって、広い場所に、自由になるとどうしていいか分からなくなっちまう。田舎から出てきたからね。で、農場に帰りたくなっちまう。俺には狭い世界が合ってるんだ。楽しそうにしてる奴らより、不機嫌な奴らが好きなんだ。ガキのころから、殴られてる方が性にあうのさ」
いま考えれば、それが南波さんと話したなかで、いちばん鮮明に覚えている会話だった。南波さんが自分の胸の内をみせたのは、後にも先にもそのときだけだった。
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さて、そろそろ火星における『占い師』の話にはいるよー!
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