ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。
センター:支配者である猫が管理する組織。
右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長
佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。
北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者
今回の手紙を書き始めたころ、もうすぐ農場を出なければならないと言ったね。あれから状況はますます悪くなって、もうまたしばらくは書き送れなくなるかもしれない。状況が悪くなって……か。でも僕にとっては希望もある。
いま、僕はたぶん南波さんを殺した人間を知っている。でもその事実を信じたくはない。そして、僕は怜とふたたび巡りあった。
なぜそんな大きなことを今まで言わなかったかって……? これを書き始めたときは、彼女だって確信が持てなかったからだ。期待が大きければ大きいほど、違ったときの落胆もまた大きいだろう……?
再会はほとんど一瞬だった……それでもなお、僕は彼女だと思った。
僕にとってジーナも、彼女への思いも、とても真剣で、簡単には名前を書くこともできない存在なんだ。そうだよ、これは小説じゃない。僕と言う人間が生きている証そのものなんだから。
なんでこんなことになったのか、まだ状況を整理することが僕にもできていない。そうだ、たった数日のうちに、状況が大きく動いた。農場の暮らしが良かったとは言わない。だけど、それですらどんなに穏やかだったかと今になって思うよね。
ただ今はジーナに近づいたと信じるだけだ。ジーナを誘拐した奴らはだいたい目星がついた。その可能性を考えていなかったわけではないけれど、取り戻すのがより困難になったことは間違いがない。
状況が動き始めたのは、いつものように僕が開拓団の街へと出かけているときだった。その日は南波さんと一緒で、第四ポートの駅のとなりと言っていいほど、街の中心にある店が目的地だった。
当たり前だけど、そういう店に行くのは僕にとっては危険がある。新しいIDを手に入れて、姿かたちを変えているとはいえ、骨格まではごまかせない。街の中心部には監視装置も増えるから、なるべく表通りは通らないようにしていた。
けれど、一方で困ったこともあった。相つぐ停電で、ビアクルの電力も節約するように言われていたんだ。入り組んだ裏通りばかりを通ると、距離がかさんでビアクルの電池も減る。火星世代のビアクルは大気や水の二酸化炭素と水素から合成した燃料を使っているけれど、ここの開拓団地域ではそれよりも原始的な電気自動車しかない。
もちろん、合成燃料には莫大なコストがかかるから、たとえセンターと言えど湯水のようには使えないよね。だから電力増産計画を必要としてるわけだけど……。
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