ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。
センター:支配者である猫が管理する組織。
右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長
佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。
北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者
これは、僕がいま書いている手紙はいつごろ届いているかな……。設定では二日ほど遅れたかと思うんだが。実は前に送ってからはずいぶん時間がたってしまっている。それで、手短にとはおもうんだけど、いろいろなことがあったので少し長くなるかもしれない。
状況としてはとても危険な状況だ。おそらく、近いうちにこの農場は出なくてはいけない。僕の班の人間が死んだ。……殺されたんだ。僕に関係することなのか、何か全く別のことなのか、それはまだよくわからない。ともかく確かに佐田さんの言ったとおり、この農場というところは思ったより危険な場所なんだ……。
あれから僕は、開拓団の街へ営業に行く仕事をもらった。二人組で、第四ポート周辺にある三つの大きな食料品店に品物を並べに行く。さいきん、停電が多いので少し納入スケジュールがずれがちだった。
三つあるうちのいちばん大きい店がこれでとても怒っていて、僕はその日もウチワサボテンを並べているときに、店の仕入れマネジャーに呼び止められた。
「つぎの納入はいつになるんだ『K』。それとな、店が開く前に並べ切ってもらわないと、あんたのその恰好で店をうろつかれたら困るんだが」
この担当についてからは、食料品を扱うには開拓団地域からみたって格好がひどすぎるというので、僕なりに髭や髪の毛(目はなるべく隠すようにしていた。とにかくどこかで『センター』に認識されたらすべて終わりなんだ)を出来るだけ整えるようにしていた。
それでもこのマネージャは僕のことが気に食わないようだったけれどね。それも仕方ない。だって、僕たち農業労働者は、何とも言えない鉄臭い土や肥料のまざった独特の匂いがするんだ。食料品を売るときにはまさしく邪魔になるんだろうな、と言うことは理解できた。
僕は納入予定スケジュールを手元の端末で確認した。ちなみに、火星世代や、開拓団でもいいところに勤めている人たちはビジネスリングを使うけれど、農場の下っ端労働者たちはほとんどビジネスリングを使っていなかった。作業の邪魔だし、ビジネスリングはそこそこ高い。それに肥料を扱うしね。(その代わりに作業着の下にビジネスリング代わりのネックレスのようなものを身に着けている人が多いよ)
僕がやはり三日ほど遅れるようだ、と答えると、マネジャーは大きなため息をついた。もし納入の量を増やしてくれるなら、取引のトークンの『量』を大幅に増やしてもいいと言い始めた。
「ええ、何が何だか分からないが、さいきんは地球からの食料が減って、『センター』からもサボテン類が買われるらしい。うちに入る量が少なくなって困ってるんだよ」
さて殺された男とは……?
読み終わったら、ポイントを付けましょう!