ネコカイン・ジャンキー!2 ~仁義なき亘平編~

火星でのらの子猫を拾ったら特別な猫でした
スナメリ@鉄腕ゲッツ
スナメリ@鉄腕ゲッツ

第十二話 『センター』の思惑-1

公開日時: 2021年4月13日(火) 11:32
文字数:1,121

 屋敷の部屋に閉じ込められているあいだ、たっぷりの食事も清潔なベッドもシャワーも与えられていたけれど、他の人間と一言も話さないということは地上での暮らしと一緒だった。

 いちど見張りの男が食事を持って入ってきたときに話しかけてはみたけれど、僕の少しさっぱりした姿(といっても髪も髭も伸び放題だったけど)をみて


「おまえそんなツラだったのか」


と一言いうだけで僕の言葉はすべて無視された。

 その数日後、また別の男が入ってきたこう言った。


「こい、IDが届いたぞ」


僕はまたはじめにボスたちと会った部屋に連れて行かれた。だけど、こんどは中にはボスと斬三と呼ばれた若い男だけがいた。

僕を連れてきた男は、僕の腕を縛ることもせずに、そのまま普通に部屋を立ち去った。どうやら僕はボスに信用されたらしかった。


斬三と呼ばれた男がビジネスリングから資料を映し出し言った。よく見るとこの男はずいぶんと血気盛んそうで、いまは好奇心旺盛に僕の顔に視線を向けていた。

資料に目を戻すと、そこにはかつての僕の……サラリーマンらしいちょっとこわばった表情の写真が出ていた。


「山風亘平。所属『グンシン』公社。採掘坑よりマグマ陥入部に滑落、遺体不明。……髪の毛をわけろ、顔を確認する」


 僕は左手で顔にかかった髪をできるだけ取り除いた。


「ずいぶんやせたな、右手はどうした」


「右手は脱出するときにはずれていらい、動かしづらい」


男はじろりと僕を見ると、

「医者を呼んでやる。治療は火星世代と同じものは期待するなよ。IDの医療記録には右手のことが書いていないから、バレたらまずい。医療記録のお前の遺伝子型は違うものだ。どうしても医者にかかることがあるなら十造(じゅうぞう)を通せ。おまえをさいしょにここに連れてきたあの男だ」


と言った。僕がうなずくと、ボスがこう言った。


「君の新しい名前は林恭介(はやし きょうすけ)だ。だが私は君を『K』と呼ぼう。新しいIDを得たものは自分の新しい名前を必要以上に意識して態度が不自然になりやすい。それで……『K』、IDは君の持っている情報と引き換えだ。君の知っている『センター』の計画とはなんだ?」


「『センター』は開拓団地域を火星世代地域と統合しようとしています。その手始めが開拓団地域の電力不足を解消して、生活の格差を解消するというのが表向きですが……」


「他に何がある」


「『センター』は『犬』の増産もすさまじい勢いで進めています。電力は『犬』の駆動にも必要だ」


ボスはしばらく黙ると、机の上の箱をあけて葉巻型ネコカインの吸い口をかみ切った。斬三がタイミングよく火をつけ、しばらく全員が黙っていた。

ボスはしばらくしてフウっと煙を吐き出すと、


「戦争でも始めるつもりか」


と言った。

**********************************************



ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。

グンシン:亘平の勤めていた地下資源採掘会社。火星の歴史資料庫をもっている。

怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。

センター:支配者である猫が管理する組織。

オテロウ:『センター』からグンシンに来ている猫。亘平を警戒して犬を放った。

犬:『センター』が治安管理のために所有する四つ足ロボットの総称。

珠々(すず)さん:有能なオテロウの秘書。グンシン取締役の娘。亘平に思いを寄せる。

山風明日香(やまかぜあすか):亘平の母。『センター』により犯罪者として処分された。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート