僕は君がまだこの文章を読んでいると信じている。……なぜ信じてるかって……? 実はグンシンの資料庫で読んだのさ。
君たちのいま読んでいる小説サイトは、すべての国のものが集められ、やがて『統合知』として地球政府が保存するようになる。
つまり、全ての知識を詰め込んだものってことだね。ある意味でその『統合知』は地球を救ったよ……。ある意味ではね。
なぜ数あるサイトの中で小説サイトが必要だったのか。それは知識が人間から切り離せないことそのものが理由なんだけど、その話は少し厄介だ。
まあ簡単に言うなら、AIに人間の思考を移すためには、言語で書かれた人間の生活と思考や感情が必要だったのさ。そのときに、人間の手で紡がれた膨大な小説と、その小説へ寄せられた感情のデータはこれ以上なく役に立った……。
まあとにかく、僕はそのサイトで君がこれを読んでいるのは知っている。(もしかしたら小説と思って読んでるかもしれないけれどね)
ある時代から小説は集められ、そして守られていた。あの地球を滅ぼした壊滅的なできごとまではね……。
……いま僕がどこでどうやってこれを君に書いているかって? まあかろうじて生活できる自分の部屋があって、息をひそめて毎日を生きているよ。
ギャングのボスについてはもう少し話をしなければならない。
この狭い部屋には窓もない。あの採掘場の詰め所より狭いくらいだ。固い鋼鉄のベッドが壁から突き出ていて、そこの上にボロくずのような布が二枚支給されている、どっちを敷いてもどっちをかけても同じようなやつさ。
明かりは壁に一つだけついている。うす暗い部屋で贅沢なのは天井からぶら下がったシャワーぐらいだ。
壁はそう……錆びているよ。いつも鉄の匂いがしている。
食事は集団でとる。好きなものは食べられないけれど悪くはない。むしろ食事だけは前より良くなったかな……。
もう『センター』に追われていないかって……? いや、もう彼らは僕が死んだと思っているだろうからね。
それでもあれから……、『センター』の放った『犬』から逃げたあの夜から僕は逃げ続けている。
ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
グンシン:僕の勤めていた地下資源採掘会社。火星の歴史資料館を所有している。
センター:支配者である猫が管理する組織。
犬:センターが火星を管理するために所有している四つ足の量産型ロボット。
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