ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。
センター:支配者である猫が管理する組織。
右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長
佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。
北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者
佐田さんは口を開きかけて、また閉じた。たぶん、僕に何かを聞いてもそれ以上言わないと分かったのだろう。凛々子さんはこう言った。
「なんだっていいわ。私もあなたも他に方法がないことは確かだもの。あなたは娘さんと、それから私は北川と幸せにくらす方法を何としても見つけ出す。私もそれだけよ」
凛々子さんのその決意に満ちた口調に、僕は少し感動した。そうしたら、佐田さんがまるで僕の心をそのまま代弁するようにこうつぶやいた。
「強いなあ、女ってのは……」
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凛々子さんが僕をあの屋敷に招き入れたことで起きた変化は大きかった。僕は縁を切ったはずのギャング団にまた取り込まれるのじゃないかと心配していたけれど、それは起きなかった。なぜなら、まさに北川さんと凛々子さんが反対された理由がそれだったからだ。
凛々子さんがボスの前に僕を連れて行ったとき、ボスは反対しなかったどころか、僕を丁重に扱った。
僕はむしろIDを求めてここに初めて来た時より、冷や汗をかいていたけどね。僕は凛々子さんの隣で、言われた通りただ黙っていた。凛々子さんはこう言った。
「北川のことはともかく、わたし今は『K』さんとのことを考えはじめています。宋おじさんに聞いたら、農場の生産調整だって『K』さんに任せてるって言ってましたわ」
そして凛々子さんは、いままで見たことのない冷たい表情でこう言った。
「それに、しばらく北川を追いかけてみて分かりました、あのひと、ほんとにつまらないわ。いつも誰かの言うなりですもの、斬三兄さんだったり、私だったり」
そしてこうつけ加えた。
「ですから、将来のことも考えて、もう『K』さんをここの仲間にしようなどと考えないでほしいの」
それを聞いて、ボスは拍子抜けするほどあっさりと首を縦に振った。
「お前はまだ若い。やり直しはいくらでもきくだろう。そしてもはや『K』は我々とはかかわりのない人間だ。北川を忘れるならそれが何よりだ」
そう言うと、ボスは手で僕と凛々子さんを招いた。そして右腕で凛々子さん、左腕で僕を抱擁すると、僕たちを祝福した。(この時ばかりは僕の陰気なのびきった髪に感謝したよね!)
つまり、ボスは娘をほんとうはギャングに嫁がせたくなかったのさ!
ましてや北川さんは斬三さんの弟分で、ギャングの中心にいた人だ。たぶん、娘に危険な場所にいてほしくなかったんだろう。そしてあまりにあっさり凛々子さんの計画が成功した裏には、どうやら僕が鳴子さんのお気に入りだということも関係していたらしかった。
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