ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。
センター:支配者である猫が管理する組織。
右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長
佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。
北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者
結局、農場からは班の全員が減給という罰則を食らった。けれど不思議なことに、宿舎ではけっこうな数の奴らが僕に挨拶をするようになった。もちろん僕は何が何だかわからなくて、むしろ内心はびくびくしていたんだけれど、やがてその理由がわかった。同時に、どうして佐田さんが急に僕に親切になったのかもね。
つまり、農場の昼飯どき、班のみんなが減給になってしょんぼりして飯をかき込んでいるところへ、佐田さんがいつもの笑いを浮かべながらトークンを持ってきた。
「お前たちを巻き込むつもりはなかったんだ、悪いな、これで勘弁してくれ」
佐田さんは僕たちに一枚ずつトークンを配ったけれど、そのトークンの種類は減給分は十分ありそうな『量』だった。(トークンの種類は取引規模によって定められていて、大規模な種類はもちろん『センター』の監視下におかれている。僕らは額というか、『量』と呼んでいるんだけどね)
僕たちがあっけにとられていると、右藤さんがトークンの中身をビジネスリングで確かめながら、舌打ちして言った。
「なんだおまえ、『K』に賭けてたのか」
「何言ってるんだ、引き分けだよ、引き分け。勝負がつかねえ、に賭けてたんだよ。悪いな、あんな騒動になっちまったから審判が長引いちまってよ。やり直しもきかねえから引き分けってことになったのさ」
僕があっけにとられて佐田さんを見ていると、佐田さんはネコカインに火をつけながらこう言った。
「おかげでこうして減給分が出たんだから『K』さまさまだな。おまえ、そのぼさぼさ頭であんぐり口開けてりゃ余計まぬけにみえるぜ。ケンカがあればそこに賭けが必ずついてくるんだよ。お月さん(ダイモスとフォボス)みたいなもんさ。なんだい大学って場所はそんなことも教えねぇのかい」
それを聞いて班の全員が僕の方を見て笑った。右藤さんは言った。
「はじめはインテリで気に食わないやつだと思ったが……」
僕がちょっと驚いて右藤さんを見ると、右藤さんは僕をまじまじと見て、
「やっぱり気に食わねえなあ、勉強なんかしやがって、労働者の誇りってもんがねえんだ。それに身なりが何と言ったってむさくるしい。まあでも話ができないやつじゃないとわかったがね」
と僕にたくましい腕を見せつけてきたので、僕はちらっと自分の頼りない腕を思わず見てしまった。あのとき乱闘が起こらなかったらまちがいなく僕は締め上げられていただろうから、内心ホッとしたよね……。
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確率論はもしかしたら賭けにいいかもしれないから行くなら数学科なんだろうか……(困惑)
ダイモスとフォボス:火星の二つの衛星。月。
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