ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。
センター:支配者である猫が管理する組織。
右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長
佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。
北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者
そう言うと、凛々子さんはあからさまに膨れた。僕はちょっとだけ、もしジーナが人間の女の子だったなら、きっとこんな風に分かりやすかったろうな、と思った。それにしても、ちょっと子供を卒業したような女の子と、北川さんが夫婦というのはあまりにも不自然なように思えた。
「……失礼ですが、北川さんとはずいぶん年が離れているように見えますが……」
凛々子さんはいきなり
「そんなことないわ!」
と早口にまくしたて始めた。
「わたし、わがままですし、顔立ちも幼く見えますが二十五になります。北川は十上だけど、そんなのいくらでもいるでしょう? 二百歳生きるうちの十年よ。それに、北川からアプローチされたことなんか一度もないわ。あのひと、いつだって何も言わないのよ」
それを聞いて佐田さんが誰に言うともなくこう呟いた。
「なんだ、北川は三十五なのか。斬三の若頭がそれぐらいだからそりゃそうか」
確かに北川さんはそれよりもだいぶ年のように見えた。僕はちょっと興奮気味の凛々子さんに聞くより、佐田さんに聞いたほうが早いと判断してこう聞いた。
「僕も巻き込まれたいじょう、状況を把握しておきたいんですが、凛々子さんと北川さんはどういうご関係なんですか、佐田さん」
「自分から首を突っ込むと抜けられなくなるぜ、『K』」
佐田さんの警告もむなしく、凛々子さんはどうやら僕の助太刀を求めて状況を話し始めた。
「北川は父に拾われた男です。『鉄のバケツ』団と他のギャングの抗争に巻き込まれて死んだ人の子供でした。私と斬三兄さんと北川はあの屋敷で、ちいさいころから一緒に育ちました。念のため、もういちど言いますけど、北川はわたしに自分から言い寄ってきたことはありません。
……でもあの人、ほら、けっこう顔がいいでしょう……? だから、わたしのまわりではとても人気があったの。学校では優等生で通っていたのよ。父に追い出されるまでは、兄の片腕になるはずの人だったのよ……。
それから、いまあんなに仏頂面ですけど、昔はほんとに兄と一緒にころげまわって遊んでました。子猫みたいに! だから、あの人が追い出されて、農場なんかに行かされたのは、ぜんぶ私のせいだわ……」
凛々子さんは北川さんのことになると話が止まらないようだった。佐田さんが否定もせずに聞いているところを見ると、ぜんぶ本当のことなのだろう。それにしても、凛々子さんが一方的に片思いしていたなら、あのボスが北川さんを追い出すとは考えにくい。
それに、なぜ二人が夫婦なのかもわからない。
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