ネコカイン・ジャンキー!2 ~仁義なき亘平編~

火星でのらの子猫を拾ったら特別な猫でした
スナメリ@鉄腕ゲッツ
スナメリ@鉄腕ゲッツ

第十八話 農場のドッグファイト-3

公開日時: 2021年4月21日(水) 21:15
更新日時: 2021年5月25日(火) 11:47
文字数:1,022

ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。

怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。

センター:支配者である猫が管理する組織。

右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長

佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。

北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者

 労働者にとって畑仕事が終わったあとの夕食は、唯一の憩いの時間だ。作業の合間に書き込む昼食と違って、ようやく席について腹を満たすことができる。ところがだからこその問題があって、食事を配る列はいつもいらだっているわけだ。

 佐田さんは、そのときをねらったかのように右藤さんを横目に僕に話しかけた。


「ここのメシはマズかないが、家に比べりゃ物足りねえな。おまえの家はどうだ」


「ここので上等ですよ」


 僕がそう答えると、右藤さんはまた吐き捨てるように


「インテリ女房はメシも作らねえだろう」


と嫌味を言った。佐田さんはへっへ、と笑うと、さらに僕にこう言った。


「それならきっと美人なんだろう。なんかいいところが無くっちゃあなあ。いったいどこに惚れたんだよ、あんた」


この質問に、僕はほとほと困った。そもそも佐田さんは僕のIDが偽物であることを知っているはずなのに、なんでこんな質問をするのだろう、とも思った。


「ええ、まあ……どこに惚れた……」


「一目ぼれか。それとも女房があんたにぞっこんか」


 それを聞いてプライドの高い北川(きたがわ)さんがボソボソとこう言った。


「この男が女に惚れられるご面相かよ。髭すら剃りゃしない、頭はいつも洗いざらしときたもんだ。女房だっていまごろ逃げてるか知らんぜ」


 佐田さんはへへへ、とまた笑うと、しつこく僕にこう聞いた。


「まあまあ、あんただって女房のいいところの一つも言えないようじゃ、女房がかわいそうじゃないか。どこに惚れたんだよ」


僕はもう答えようがないまま、なんとく胸に浮かんだ言葉を口に出した。


「目のきれいな……うそのない人です」


班でいちばんおとなしい南波(なんば)さんがようやく渡された野菜スープをトレーにのせると、僕をちらっと見た。

佐田さんもスープを自分のトレーに乗せてこう言った。


「ふうん、どう思います右藤さん。目のきれいなうそのない女房だそうですよ。さらに頭がいいと来てる。あんたもなかなかやるじゃないか」


 右藤さんはスープの横にさらに肉用の大きな皿を置きながら、


「さあどうだかな」


と言った。それから感情のない目で僕を眺めると、こう続けた。


「こんな男を選ぶ女なんだから、ろくな女じゃねぇよ。目がきれい? うそがない? そんなこと思うのはてめぇばっかりで、女房がまともなら今ごろてめぇよりいい男とねんごろになってら。聞いてみろ、いまいい仲の男はいるかってね。正直にてめぇより好きな男がいますって言うかもしれねぇぜ、知らぬは亭主ばかりなり!」


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