ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。
センター:支配者である猫が管理する組織。
鳴子(なるこ)・遥(はるか)・仁(じん):開拓団の占い師、エンジニアの双子姉妹と、その息子である医者。
珠々(すず)さん:有能なオテロウの秘書。グンシン取締役の娘。亘平に思いを寄せる。
地球からは火星ではとれない果物や野菜が運ばれてくるという話は聞いたことがあった。それはでも、『センター』の人々のためだ。それが減っているだって……?
地球からの積み荷が、もし食料から武器に代わっているのだとしたら……。僕は思わずしばらく手を止めて考え込んだ。
マネジャーはそれを見逃さずにこう言った。
「あんたに担当がかわってから、作業が遅くてかなわないよ。もしあんたがウチへの納入を増やせないんなら、苦情はきっちり出させてもらうからな」
それはなかば脅しだった。僕は肩をすくめて頭を下げると、残りをさっさとならべ終えて、次の注文の希望の量を聞いてから店を出た。
最後の店に行くのには、第四ポート駅の中心街(なつかしい『かわます亭』のある通りだね)を通るのが早かったけれど、僕はいつも一つ奥まった道を行くようにしていた。それは鳴子さんたちに会わないためでもあった。
ビアクルで開拓団の街をいくとき、鳴子さん……遥さん。仁さん。珠々さん。懐かしい人たちの顔が次々に浮かんだ。ジーナをよく遥さんのジャンクヤードに迎えに行ったっけ。かくれんぼが好きだから探すのに手間取ったよね。
そして怜……。とそこまで考えてから、あの男がいつも怜の横に顔を出す。あのイニシャルの男だ。僕より背が高く、顔立ちもいい! しかも『地球人』の男だ。僕はすっかり苦い気持ちになって別のことを考える努力をする。いつもその繰り返しだ、滑稽だけどね!
気持ちだけは焦ったけれど、ジーナにつながる情報は入ってこなかった。ジーナが誰につかまっていたとしても、人間が猫を傷つけることはあり得ない。もしもギャングに連れ去られたなら、どこかで大切にされているはずだ。だがもし、もしギャングが犯人でなかったら、そう考えると僕の胃は心配できゅっと痛んだ。
第四ポート駅の周辺はだいぶ緊張感が漂っていた。自警団のような人々が見回っていたし、ギャングはこのところ活動を控えているようだった。
もし僕が『かわます亭』にはいれたなら、もっと情報収集は簡単だったろう。一杯ひっかけながら、周りの人たちの話に耳をすませばそれでいい。
だけど、現実にはそんな危険は冒せないし、そのうえそもそも農業労働者には飲みに入るような金もなかった。
僕がこの数週間で仕入れた情報と言えば、開拓団地域では野菜が足りないこと、それから『鉄のバケツ団』への不信感が高まっているという事だけだった。
この数百年、『センター』と『火星世代』、『開拓団』は微妙なバランスでこの火星の社会をかたちづくってきた。けれど、理由はわからないけれど開拓団地域の治安は悪くなり、そのバランスが崩れようとしている。そして、『センター』がしかけようとしている『はじめの人たち』への戦い……。火星で誰にも気づかれずに何かが起きようとしてる。
僕は一つの変化も見逃すまいとした。
その男の名は 真田仗(さなだ じょう)……。そう、地球は重力が強いから火星人より力持ちなのだ!
だから火星世代はなんとなく地球人に負けちゃう気がしているよ。。。
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