ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。
センター:支配者である猫が管理する組織。
右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長
佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。
北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者
まあでも監視カメラだってビアクルの中まで写すわけじゃないから、何も問題はないはずだった。僕はビアクルの中でぐうぐうと眠りこける南波さんを横目に、凛々子さんからもらった情報を考えていた。
凛々子さんが言うには、あの火事については『鉄のバケツ』団も調査していて、他のギャング団にも探りを入れたけれど、どこも否定している、ということだった。
そして、もうひとつ『鉄のバケツ』団には気になっていることがある、と凛々子さんは言った。それはギャング団がかかわらない『殺し』が横行しはじめているという事だった。『センター』が管理する世界において、人間の『命』はそもそもが『センター』の所有だった。僕たちはこう教わる、人間は自分たちの『命』を自分たちのものだと考える、だからこそ傲慢にも自分の命を危険にさらし、他人の命をうばっていいと考える、それが戦争だ、と。
しかし、人間はせめて猫に服従するほどには賢かった。猫が教育を受け、人間よりも高度に哲学を発達させることができたので、人間は救われた。猫は人間の助けを借りてこの世界を統治し、かわりにネコカインを与えて人間の中の『戦争への意思』を封印する。それが人間と猫との『契約』だった。
もちろん、それはギャングも例外じゃない。だけど、彼らにはセンターも一部、『殺し』を認めていた。凛々子さんによれば、それはギャングがずっと死体処理や食糧生産といった『命』に係わる仕事を引き受けてきたからだ。
センターは、ギャングたちの掟で殺されたものは関知しなかった。また、ギャングたちは闇市場に流入したネコカインをセンターに上納する役割も果たしていたので、センターは自分たちのやることに反抗しない限り、ギャングのやることを見逃していたんだ。
それはある意味で賢いやり方だった。なぜかって、ギャングはもともとセンターに対するレジスタンスだったんだからね。自分に抵抗しなければ少し目をつぶる、というのはいままではうまく行っていたわけだ。
けれど、凛々子さんが言うようにギャングの知らない『殺し』が横行しているというなら、それは奇妙なことだった。しかも『鉄のバケツ』団が管理するこの地区だけでなく、他のギャング団の地域でも起きているというのだから。
センターがそれに対して動かないのは、センターに『よく管理された』火星世代の僕にとってはものすごく奇妙なことに思えた。
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