僕は佐田さんがあまりに意外なことを言ったせいで、どうやら間抜けな顔をしていたらしい。佐田さんは心配そうに僕を見つめ、こう言った。
「なんだ、お前まさか、『はじめの人たち』が『センター』の言う通りみんないなくなったなんて思ってたんじゃないだろうな……。だって『火星世代』から追われ、『開拓団』にもギャングのところにも居られないなら……、奴らのところしかないじゃないか」
そして佐田さんは今いる部屋から倉庫へと続く扉に近寄ると、僕を呼びよせた。
「お宝だぜ」
そう言うと佐田さんは扉をそっと開いた。中から、この部屋に入ったときに感じたものの十倍濃い香りが押し寄せた。そして佐田さんが明かりを部屋に点けると、倉庫が僕たちのいた前室よりはるかに広いのがわかった。
その広い倉庫で、僕の目の前に現れたのはボスの屋敷で見た絨毯の山だった。この火星の中でもっとも高額と言ってもいいものが、僕の背丈よりはるかに高く積まれていたんだ。
「これは……」
佐田さんはその山に登ると、気持ちよさそうに背中をもたせ掛けた。佐田さんらしくなかったけど、気持ちは理解できるよね。
何枚かは手の込んだ模様に織り込まれ、しかも『木』の板に張り付けられて飾られていた。たぶん農場で一生働いたって買えないしろものだ。
「奴らはまだ生き残っている、そして、これが奴らとギャングが取引しているものさ。奴らのすごいところは、これだけじゃない。奴らはネコカインも持っている。『センター』にとっては不都合なことだがね」
佐田さんはそう言いながら僕に小さな織物の一枚を投げた。
そうだ、ジーナに少し似ていると思ったその香りは、生き物の香りだ。僕はその手触りを確かめた。僕の心臓が苦しさで悲鳴をあげた。ジーナを取り戻すためといいながら、実際はいつまでたっても逃げ回ってばかりだ。そんなことのために生きてここにいるんじゃない、と僕の中で何かが爆発しそうになった。
もし佐田さんさえ『はじめの人たち』のところしか逃げ場がないと分かったなら、『センター』はすぐにでも気が付くだろう。だけど、そんなことを考えている状況だろうか?
僕はジーナのためになら地獄にでもなんにでも立ち向かうと決意した。
「佐田さん、佐田さんは『はじめの人たち』がどこにいるのか知ってるんですね?」
「どこにいるか、というよりも、どこにいけば会えるか、だな。ボスがお前を奴らに預ける金は用意している。……どうしてそこまで? 俺に聞くな。俺は占い師を信じないって言っただろう。奴らはここのところ、何かの目的で金を集めている。保証はないが金づるをいきなり殺しゃしないだろう」
「どこへ行けば彼らに会えるんですか?」
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