ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。
センター:支配者である猫が管理する組織。
右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長
佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。
北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者
その日、けっきょく電力が戻ることはなかった。それが何を意味するかと言えば、つまり農場のドームが低温になるってことなんだ。予備の電力は3時間ほどしか持たないから、ドームは地上ほどは寒くないけれどかなり冷え込む。多肉植物は暑さにも寒さにも強いけど、やはり寒ければ枯れるものもあるし、そうなれば人力で世話をしなきゃならない。まあ火星の気候に関して言えば、こういうときは本当に地下のありがたみを感じるよね……。
おそらく農場全体が二日ほど生産が遅れるはずだった。毛布をかぶりながら、しばらくぶりにあの通風孔のそばで寒さに凍えながら暮らしたことを思い出した。
翌朝、僕は佐田さんに言われたことを思い返した。農場が僕にとって危険な場所なら、僕はもっと気を配っていなければならない。あのとき、倉庫にしのびこむ生活をしていたときにはもっと周囲に気を付けていたはずだ。
そうやって注意深く観察するようにしたら、少しずつ農場のことが分かってきた。まず、僕がギャング団に入ることを拒否して入ったこの農場は、そもそもが想像以上にギャング団と関りが深いようだった。
はたらいている労働者たちは開拓団の人たちだったけど、ほとんどが辺境地域からの出稼ぎで、数年ここで働いて故郷に帰るような生活をしていた。確か前にも言ったと思うけれど、この火星では『命』に係わることは開拓団がやることになっている。農場や医療という仕事は、こういう言い方はどうかと思うけれど……下に見られている。
それが何故なのか、火星に生まれた火星世代の僕はいままで考えたことがなかった。でもそれは、とても『センター』的な何かだった。考えてみればふしぎだよね。『地球』に生命がうまれてこそこうして僕たちが存在するのに、『命』はもっと根っこの部分でこの『センター』文化にとっては相いれないものなんだ。僕にはその違和感の正体が何かはわからなかった。『センター』の支配者である猫たちだって生命の一つだというのに。
21世紀に生きる君たちとの価値観とはかなり違っているかもしれないね。僕が読んだ資料では、君たちの時代には『命』に係わることはもっと重要で、大切にされているんだろう……?
まあとにかく、あの農場主はギャングの一味だというよりも、むしろ農場という仕事がギャングの仕事の一つだと言っていいみたいだった。ギャングも『命』を扱う仕事には変わりないよね……。
この農場にどれだけいるか分からないけれど、安全であれば、まだしばらくはここから書き送れるとは思う。
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この価値観の逆転は伏線なので(複雑な伏線を張るときは積極的にばらす人)、赤丸しとけー。あとでテストにでるぞー。
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