けっして美味しくはなかったけれど、五臓六腑に染みわたるって言うのはこういうことをいうのかと思ったよね。
一息つくと、僕は佐田さんにこう言った。
「ボスが僕の知りたいことは佐田さんに聞けと言っていましたが……、まず佐田さんは何のためにここにいるんです? どうやら僕を殺すためじゃなさそうだ」
佐田さんは戸棚から次の食料を引っ張り出しながら言った。
「ギャングの依頼で人を殺す仕事はしてきたが、人を守ってくれって言う依頼は初めてだ。コンドーの親父(ボス)は引き受けるかどうかは俺にまかせるというし、占い師のいうことは信じない方だが、そいつを見てみたいとは思ったさ」
「それが僕ですか」
「で、いざ同じ班であんたを見てたらケンカの仕方も知らねぇし、明らかにあんたを狙っている小物がすぐそばにいても全く気づかない」
僕はあっ、と言って佐田さんを見た。南波さんのことは佐田さんはとっくに気が付いていたのだ。だから農場の奴らを警戒しろと注意してくれたんだろう。
「南波さんを殺したのは佐田さんですか」
佐田さんは首を振った。そしてパンらしき袋をあけると、中身を投げてよこした。
「いいや、確かに南波は始末するつもりだったが、犯人は俺じゃない。むしろあんたに心当たりがあるんじゃないかと思っていたが……、まあタレコミ屋なんてのは恨みを買うもんだからな……」
僕は南波さんが妙に質のいいネコカインをふかしていたのを思い出した。『火星世代』に与えられているのと同じぐらいの質だ。つまり、南波さんは僕のことだけじゃなく、農場の中のことを誰かに報告していたはずだ。普通に考えれば相手は『センター』に違いなかった。それで上物のネコカインが手に入ったのだろう。
そうだとすれば、『センター』はもう確実に僕に気が付いているはずだ。
僕は考えれば考えるほど、状況が想像以上に切迫しているということに焦り始めていた。
「佐田さん、どうしてボスは凛々子さんが僕を婚約者にしようとしたとき黙っていたんです? 南波さんが報告していたなら、『センター』は僕に気が付いているはずだ。僕なんかより北川さんの方がまだ安全だと知っていたはずです」
佐田さんはしばらく食べ物をもぐもぐやっていたが、それは僕に話すべきかどうかを考えているように見えた。それでようやく飲み込むと、佐田さんはこう言った。
「なあ『K』、いや亘平か。なんで俺が殺し屋になったと思う?」
「いきなり、なんの話ですか」
僕は抗議っぽくそう言った。なぜなら時間はもうなかったし、もしセンターが追ってくるのが確実なら二十四時間もここにいたくなかった。
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