僕が佐田さんの方を見ると、佐田さんはにやりと笑っていた。本当は否定したかったけれど、この話の流れをのがせばめんどくさいことになるだろう。僕は仕方なくちょっとでも哀れっぽく見えるように、なるべく肩を落とし、いつも以上に陰気に見えるように努力した。
「第四ポート駅の東地区です」
僕がそう言うと、右藤さんはしばらく考えて、いきなり表情を変えた。
「東地区っていうと、ギャングと抗争のある地域じゃねえか。……アパートの部屋も焼かれたって言うぜ……」
そこで佐田さんが僕を鋭い眼差しで見た。『鉄のバケツ団』には家族を探すとは言ったけれど、あのアパートの焼き討ちとどう関係があるかいぶかしんだのだろう。
北上さんが意地悪げにこう言った。
「そもそも、お前の女房はなんでこの農場で働いてねえんだ。オリンポスから二人で出稼ぎにきたんだろう……? 女房がこっちで新しいのを見つけたってえわけか」
それを聞いて南波さんが震えあがってこう言った。
「まさか相手はギャングですかい?」
右藤さんはしばらく考えこんでいた。
「なあ……、『K』。俺たちはギャングとはあまりかかわりたくないのが本音だ。だがてめえの気持ちもわかる。もし人づてに話を聞いて……、てめえの女房が自分の意思でお前をはなれたんなら……、そのときはわかるな?」
「自分の意思では出て行ったりしません」
僕がくぐもった声でそう反論すると、右藤さんたちは憐れむような目で僕をみた。
「そうか……そうさな、奴らもオリンポスまでは追いかけて行くめえ。とりあえず目をつけられたらすぐにここを去るんだ、わかったな。俺たちも奴らの余計な恨みは買いたくない。それさえ約束してくれたらてめえの頼みも出来ることはきいてやるよ」
そうして僕は右藤さんの消極的な同意をとりつけた。宿舎に帰ると、ドアが急にノックされたので僕はおおいそぎでビジネスリングと送信機をいつもの場所、棚の奥へと避難させた。
ドアを開けると、そこにいたのは佐田さんだった。僕が何か言うより先に佐田さんは片足をドアの中に突っ込んで部屋に入ってきた。
「さっきのはどういうことだい、東地区にあんたの家族がいるってのは」
佐田さんは後ろ手でドアを閉めるなりそう言った。
僕が黙っていると、ドアをふさいだままネコカインに火をつけた。部屋の中に、明らかにネコカイン以外のものがまざっている煙が漂って、僕は少しむせた。
「あんまり吸うと体によくありませんよ、佐田さん」
僕がそう言うと、佐田さんはわざと口から余計に煙を吹き出した。
「答えろよ、どういうことだい。あんたギャングにIDをもらったんだろう?」
佐田さんの目は冷たく光っていて、僕は背筋にぞっとするものを感じた。
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佐田さんはそこそこ重要キャラ。。。
ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
グンシン:亘平の勤めていた地下資源採掘会社。火星の歴史資料庫をもっている。
怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。
センター:支配者である猫が管理する組織。
オテロウ:『センター』からグンシンに来ている猫。亘平を警戒して犬を放った。
犬:『センター』が治安管理のために所有する四つ足ロボットの総称。
珠々(すず)さん:有能なオテロウの秘書。グンシン取締役の娘。亘平に思いを寄せる。
山風明日香(やまかぜあすか):亘平の母。『センター』により犯罪者として処分された。
右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長
佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。
北上(きたがみ)・南波(なんば):同じ班の労働者
ダイモスとフォボス:火星の二つの衛星。月。
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