ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。
センター:支配者である猫が管理する組織。
右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長
佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。
北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者
僕はそのときにはもう食料品店から脅されて、別の人間と代わってもらうぞと言われていたから、南波さんの案をなんとか実現したいと考え始めていた。
ところが右藤さんに話をもっていこうとしたら、南波さんはとたんに臆病になって首を振るんだ。
「いや、俺はいいんだ、あんたの案にしなよ。それより、俺もちょっと息抜きに開拓団の街に出たいんだが、右藤さんに一緒に掛け合ってくれないか」
それを耳ざとく聞いていたのが佐田さんで、佐田さんも開拓団の街に出たいと言い出した。佐田さんはもちろん僕が監視できない場所に行くのがちょっと気に食わないからだと思うけれどね。ひんぱんな停電で植物の成長が遅れていたせいで、前の畝の収穫がまにあわなくてすき込みが休みになることも増えていた。
そうなると仕事は減るから、佐田さんか南波さんが僕と一緒に街に出ることは簡単だった。そして農業主は増産というか、出荷量をふやすことに積極的ではなかったけど、労働者のほうでは違った。
なんて言ったって、生産が遅れれば人手があまって、そうなれば自分の首がかかってくるからね……。それで農場の中では、生産を増やそうという隠れた機運が高まっていたわけだ。だから、僕たちが増産について話し合っているのは農場の労働者たちからはこっそり支持されていた。
班の中ではいつのまにか僕と南波さんと佐田さんがセットで動いていて、プライドの高い北上さんがひとりマイペースに仕事をこなすようになっていた。
北川さんはちょっと遠目から見ればすらっとした背で、優しげな顔をした男だった。だけど性格のほうは独特というか、孤独を好むひとで、僕たちの話に自分から入ってくることはまずなかった。いつもじっとどこかを睨んでいて、決して僕たちに話かけてくるわけではないのに、その目では何かを話しかけているような人だ。
佐田さんはそういう距離をとるのがうまい人だったから、たまに宿舎では二人がネコカインをふかしているところにも行き会ったけどね。
北川さんは開拓団の街に行きたいということも言い出さなかったし、家族もどうやらいないようだった。なにせプライドが高くてとっつきにくいので、他の労働者たちもほとんど交流がないという感じだった。
……殺されたのは北川さんかって? いいや、違うよ。僕と親しかった南波さんだ。今でもビアクルに乗ると、あの南波さんの気恥ずかしそうな笑みを思い出して哀しくなる。もう彼はいないんだ。この火星にも、この宇宙のどこにもね。
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さてここでお手を拝借、みなさまでクックロビン音頭を……(殺されたの美少年じゃなくて温水さんみたいなおっさんだけども)
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