ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。
遥さん・鳴子さん:亘平とジーナを匿ってくれた開拓団の双子姉妹。エンジニアと占い師。
センター:支配者である猫が管理する組織。
右藤(うどう):農場の肥料すきこみ班長
佐田(さた):ギャングの亘平の監視役。同じ班。
北川(きたがわ)・南波(なんば):同じ班の労働者
怜と僕は身をかがめたまま別方向へ走り、そして守衛が石の落ちたあたりを調べているあいだに、僕はエレベーターを使って宿舎階まで降りた。
僕の頭の中には、怜の「遥さんは『センター』のスパイだわ」という言葉がなんどもめぐっていた。たぶん、それはすべて事実なのだ。
戻ってきた僕を、右藤さんたちはあたたかく出迎えてくれた。だけど、僕はそれどころじゃない。僕の形相を見て、班のみんなは少し驚いたような顔をした。すぐに宿舎を出なければならなかった。僕は凛々子さんの方へ真っすぐ向かって行くと、
「話があるので来てください」
とだけ言った。凛々子さんはさすがボスの娘だけあって、何かを察してすぐについてきた。僕は凛々子さんに言った。
「僕がもともと『火星世代』の人間だということは斬三さんから聞いていますね? 僕はヘマをしました。『センター』が僕に気が付いたかもしれない」
「どういうことです?」
「農場か街か、とにかく僕を狙っている人間がいます。おそらく、その人間の罠にはまって……、『センター』の人間に僕が生きているということを知られたかもしれない。僕は出来るだけ早くここを出ます」
「奥さんと言う人は、あの人は誰なんです……?」
「敵じゃありません。ただ、僕が出なければならないってことは、北川さんと凛々子さんにも迷惑がかかる。僕が言うべきことじゃないけど、もう時間がない。北川さんと話してください。彼はあなたを愛している」
凛々子さんはしばらく何かを考えているようだった。
「……知ってるわ」
凛々子さんは最後にそうつぶやくと、りんとして顔を上げた。
「Kさん、逃げるなら私の父にも挨拶を」
僕はいっしゅん戸惑った。『センター』とギャングは争いたくないはずだ。もし僕が『センター』に気づかれたなら……ギャングが僕を始末することだって考えられる。たぶん佐田さんがね。
凛々子さんはそんな考えを読んだかのようにこう言った。
「あなたの知らないことがたくさんあります。ギャングはあなたを殺したりしないわ。ともかく父に挨拶を」
「分かりました。……今日の夜は準備を考えると時間的に動けない。日中はすぐに見つかってしまう、そうすると明日の夜に出ます」
「いいわ、佐田にそれを話してください。佐田が父のところまで案内するでしょう」
僕はうなずくと、急いで自分の部屋に戻った。いまは凛々子さんの言葉が本当かどうかを考えている場合ではなかった。なぜなら、そうするしか他にないからだ。佐田さんはどのみち僕から目を離さないだろうし、そういう意味では『センター』の犬より厄介だ。
僕には最初からの疑問があった。なぜギャングは僕に佐田さんをつけて監視させている……? もしも僕がヘマをやったときのための保険なら、そのときに始末のためにギャングを一人送り込めばいいだけのはずだ。それなのに、朝から晩まで僕を監視させるのには何かわけがあるはずだ。
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