斬三がイライラした調子で部屋の中を歩きまわりはじめた。
「『センター』のやつ、何かを企んでやがると思ったら、とんでもないことを始めやがった。開拓団が火星世代に飲み込まれたら、俺たちギャング団はどうなる? 奴らの思惑はなんだ!」
とつぜん斬三は大声でそう言った。ボスはそれを憂鬱げなまなざしで見つめると、葉巻を消して僕の方を見た。僕はそれを自分の意見を求められているのだと思った。
僕は怜が言っていた『はじめの人たち』が本当の狙いだという話を慎重にさけながらこう言った。
「地球による支配を強めるためだと思う。でもあなた方が目的ではない」
「『センター』にとっては、我々など生かすも殺すも気分次第……といったところか」
ボスがそう言うのを聞いて、斬三は舌を打ちながら椅子を蹴った。(木製のをね!)
「だがそれは我々を見くびりすぎだな。『犬』の具体的な頭数はわかるか、『K』」
「僕が追われた時点ですでに3000の増産が決まっていました。そのために『グンシン』は『犬』の銃身に必要なイリジウムの増産を急いでいます。計画はマリネリス峡谷からはじまって、クリュセ、アマゾネス、そして高山は除きます。それぞれの都市圏の中心部からやるつもりでしょう。最後にカセイ峡谷だ」
斬三は舌打ちしながらまた歩き回った。
「こっちは銃弾にさえ事欠いているってのに」
ボスは静かに言った。
「落ち着け斬三、奴らが仕掛けてくるにしてもまだ先の話だ。それにまだ増産するつもりとなると……」
ボスは僕をじっと見た。
「知っていることはこれで全部か、『K』」
僕は答えた。
「僕が言えることはこれが全部です」
「言えることは、か。いいか、『K』。君はとても正直な人間だ。だから私は君を信用する。しかし、正直な人間は『センター』につかまる前に始末せねばならん。私たちのことも正直に言ってしまうからな」
僕は身構えた。ボスは首を振った。
「我々はいつだって名誉を重んじる。君は出せるものを出し、これ以上は命を引き換えにしても口を割らんだろう。それならばそれでいい。IDのための金は自分で持っておきたまえ、どうせその状況では大した金を持ち出すことはできなかったろう」
僕はボスの意図していることが分からずにそこにただつっ立っていた。斬三はまったくの無表情で僕を見ており、ボスは意地悪げもなく、にやりと笑った。
「君は私との約束を忘れていないだろうな、恩人との約束を」
つまり、僕にはいつかイヤとは言えない『お願い』が下される、ということだった。僕は静かにうなずいた。
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ジーナ:僕と一緒に暮らしていた猫。あらわれたとき、火星では禁止されている「野良のこねこ」だった。
グンシン:亘平の勤めていた地下資源採掘会社。火星の歴史資料庫をもっている。
怜(とき):『はじめの人々』? それとも『センター』? 亘平の惚れた謎の美女。
センター:支配者である猫が管理する組織。
オテロウ:『センター』からグンシンに来ている猫。亘平を警戒して犬を放った。
犬:『センター』が治安管理のために所有する四つ足ロボットの総称。
珠々(すず)さん:有能なオテロウの秘書。グンシン取締役の娘。亘平に思いを寄せる。
山風明日香(やまかぜあすか):亘平の母。『センター』により犯罪者として処分された。
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