地球に転生した魔法使いの僕は厄介事に巻き込まれやすいようです

その魔法使いは旧きお伽噺話を解明し、滅ぼす。
嵩枦 燐
嵩枦 燐

第三話

公開日時: 2020年9月8日(火) 22:00
更新日時: 2020年9月9日(水) 16:11
文字数:7,578

こんばんは、リンです。

本日三話目、今日はここまでです。

次の更新は明日18時を予定しております。




蒼白に輝く小鳥の引いた光の尾を頼りに、洸は濃霧の中を移動していく。

歩いて暫く経過したが、特に襲撃もなく、罠も張られている様子は見られない。

幻術内でも歩いて安全な経路を通らされているのが想像出来た。

ただ――


「どうやら思ったより広範囲に術が展開されているようで」

「さっきの結界といい、こういう手合いは真正面から仕掛けてこない」


熟年の狩人の様に相手の戦力を削ぎ、仕留める。

大人であろうと弱れば、子供にも簡単に負けるものだ。


「尤も僕達の場合、霧で塞がれてる視界だけが問題だな」

「こういう手合いは正直、面倒ですな」

「広域展開する幻術は術者の居所を阻害する効果もあるからな。術者を直接、叩けない。居所が分かればお前を送り込めるんだがな」


歩けど歩けど、霧が晴れた場所に行きつく気配が一向にない。


「今は大人しくあの鳥についていくしかない」

「相手が出てくるのを待ち構えるおつもりで?」

「夜谷が目的なら向こうから仕掛けてくるだろうしね?」


周辺被害を考えなければ、展開されている眼前の幻術を力押しで解く事は造作もない。

|波瑠《にもつ》を抱えていても差し障りはない。

問題なのは森を包むほどの大規模な結界を破壊する為には相応の範囲攻撃が必要であるという点。

近場に弥生が居るかもしれないというのも問題だ。

すると、


「おーい!」


深い霧の向こうから洸達を呼ぶような声が聞こえてきた。声のする方向へ見ると霧のせいで容姿は定かではないが人影らしき輪郭が洸達の下へ近づいてきていた。洸は警戒しながら影を注視する。


「おっ、居た、居た。大丈夫だったかい?」

「弥生さん」


人影の正体は波瑠を探しに一緒に来た観月であった。

ルギヤはそそくさと観月の視界から外れる様に茂みへと身を隠す。


「無事だったみたいだね」

「えぇ。急な濃霧に少し慌てましたがどうにか。弥生さんも無事だったみたいですね」

「こっちもこっちで方向が分からなくなって大変だったよ。その娘は無事に見つけられたようだね」


波瑠の身が無事だった事に安心している様子であるが、洸は今の彼女に少し違和感を覚える。

第三者視点からみれば霧の中で奇跡的に合流したように見えるだろうが、洸にはどうにも解せなかった。

安心しているのは間違いないが、探す前の"必死"さがない。


「えぇ、こっちも色々ありましたが、問題なく"先輩"を確保出来ました」


だから、少しばかり試す事にした。

洸は背中の同級生を『先輩』と呼んで観月へ見せる。


「いやぁ、良かった、良かった。それじゃあ、屋敷に戻ろうか?皆、心配しているだろうからね?」


観月は何も突っ込むこともなく、自然な態度で踵を返し背を向けた。軽い足取りで来た方向へと歩き出す。

この反応に洸の"違和感"は"確信"へと変わる。

そして、


『|βφζπΑθμΕΛ《動体を禁ず》』


洸が聞き慣れぬ言語を発した。

すると


「っ―――これはっ!?」


彼女が背中を向けたまま驚愕の声を上げた。

急に自分の身体に起きた異常に困惑する観月。


「随分と精度の高い変装だな」

「一体なんの事だい!?それにこれは――――」

「外見作りと言葉遣いは見事だが、次回からしっかり攫う対象の名前は覚えとく事だ」


次回など存在しえないが。


「さて、君がこの幻術を張っている術者ないし、関係者なのは状況的に分かっている。悪いが解いてもらえないかな?」

「…何の話を、してるんだい?」

「誤魔化しは無しにしよう。時間の無駄だよ。でも、そうか…幻術の術者はやはり別に居るのか」


肯定も否定もしていないが、少なくとももう一人術者が居るのだと想像はできる。

口をつぐみ、沈黙する"偽観月"を視界に収めながら、洸は口を開く。


Λζμ∀γλ∩χ虚偽を禁ずる

「―っ――」


再び聞き慣れぬ言語で洸は偽物に命ずる。

偽物は洸の言語に不穏なものを直感的に感じたのか、口を噛み締めて、何も話さないように抗う。

だが、抵抗虚しく言葉を封じられても外見はどうにも出来なかったようだ。偽観月が自身に掛けた幻術が解け、本来の姿を顕にした。現れたのは本物の観月と同年代くらいの赤色の和服を着た女性。


(これは…)


似ていた。

本物の観月と酷似する点が多い顔立ち。

最早、双子といっても差し支えがない。


(まさか…)


ちょっとした推測が頭を過ぎったその瞬間。


「っ……」


急に吹き荒れてきた風に洸は反射的に片腕で顔を庇い、

同時に波瑠を吹き飛ばされないように背負い直した。

風は徐々に収まっていくと、女性が洸から距離を取って息を整えながら睨みつけてきてた。


「はっ……はっ…アンタ何者だい…小娘の周りに"アイツ"以外の術者が居るなんて聞いてないよ……」

「別にただの普通の中学生ですよ。クラスメイトの叔母に誘われて、この土地を訪れただけの、ね」

「あたしを拘束できる輩なんざ、高名な陰陽師か、導師でもなきゃ無理さ。何なんだい?アンタは……」

「だから、至って普通の中学生ですって」


細やかな畏怖を帯びた声音で問い掛けてくる和服の女性に洸は穏やかに微笑みながら同じ台詞を返す。

その言葉と態度に小馬鹿にされたと受け取ったのか、和服の女性は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。

しかし、何も行動は出来なかった。

報復しようにも眼前にいる自称普通の中学生は只ならぬ者だと彼女の本能が告げていた。

自分を拘束した謎の術のからくりが分からない限り、下手な真似は出来ない。

そうして、お互いに睨み合っていると、


「ふふふ……無様ねぇ」

「ふふふ……滑稽ねぇ」


何も打開策を講じず、膝をつく和服の女性を嘲笑うような少女の声音が霧の中で木霊する。

洸は注意深くいつでも動けるように神経を研ぎ澄ました。


「身の程を知らないからそうなるの」

「相手との力量差を直ぐに察せないから負けるの」

「だから」

「ほら」

「「こうして私達の手を煩わせるの」」


ふわりと霧の中、黒髪と白髪の対象的な髪色だが、似姿が瓜二つの着物姿の双子の少女達が、女性の左右に唐突に現れた。


「アンタ達の話じゃ、あの女しかいないって話だっただろう!」


和服の女性が反論する様に少女達へ怒鳴り散らした。


「事前の調べではそうだったけど」

「状況は移り変わるもの」

「何より」

「そうね、何より」

「「貴女が人間如きに負けるとは思わなかったわ」」


くすくすと着物の裾で口元を覆い、双子の少女はコロコロと明るく笑う。あからさまに馬鹿にし蔑んでいる。


「お陰で恐い恐い番犬が来てしまうわ」

「残念だけど引き際ね。本当に残念だわ」


双子の少女達がほぼ同じく腕を横に振ると、再び風が巻き起こる。

風圧により、顔を正面に向けられなかった。

流石に何処から見て対策を講じているのか。

洸の"不思議な術"を使わせないようにしてきた。


「次こそ、その娘を頂戴するわ」

「私達が引き取りにいくまで預かっていてね?」


そう言って巻き起こした霧風に紛れると、三人の気配が突如、消えた。

風が止み、森を覆っていた霧も晴れると先程までそこに立っていた三人の姿は跡形もなかった。

洸は身を隠して本当は自分達を狙っているのではないかと、念には念を入れ、彼らの気配を追ってみる。

どうやら本当に引いたようで周囲には三人の魔力は感知出来なかった。


「逃げましたかな?」


隠れていたルギヤが茂みから出て言った。


「あぁ…。一先ずは安心だ。だが……」


双子の少女の片割れが"番犬"と評したのが、第三勢力らしき存在。

三人はその存在に悟られずに波瑠を誘拐しようとしたが、思わぬ相手…洸という予定外の人間が現れたことでモタついている間に、接近を許してしまい、分が悪くなり、逃げた…というところだろう。


「追いますか?」

「いや、また攫いに来るって言っていたからね。不要だよ」


遅かれ早かれ、来るならば此方から動く必要もない。


「"あの程度"の奴らなら、まだ対処出来る範囲だ。それよりも―――」


洸はちらりと足元にいるルギヤを見る。


「…何ですかな?」


何を頼まれるか、おおよその見当は付いているがルギヤは聞き返した。


「この土地について、少し調べてきてくれ。どうにも、今回の1件、簡単に終わらなさそうだ」


背中の波瑠を抱え直しながら、真剣な表情で洸はルギヤに頼んだ。





襲撃者も去り、霧も晴れ、危機を無事に脱し。

ルギヤを情報収集へ向かわせると、改めて洸は波瑠を背負いながら屋敷を目指し歩いていた

霧が晴れた事で視界的に周りの景色が分かるようになった事と、術の影響が無くなった事で探索系の魔法が有効になった為、洸は魔法を行使しながら屋敷へ向かっていた、その時…


「波瑠〜!皆縞〜!どこだーい!返事しなぁ!!」


そう遠くない所から本物の観月と思われる女性の声が聞こえてきた。

立ち止まり、少し周囲を見渡していくと、比較的近い繁みから草木を掻き分けて、白髪の女性が姿を現した。

繁みから出て、洸達の姿を確認すると心底安堵した様子で二人の下に駆け寄った。


「皆縞!無事だったんだね!波瑠は!?」

「大丈夫ですよ。大きな樹の根元で気絶していました」


洸が背負う波瑠を見せると、観月はホッと息を吐く。


「良かったよ…。急に霧が掛かってきてたし、二次被害が出る前に皆縞だけでも見つけようとしたんだが、中々見つからなくて心配したよ……」

「すいません。夜谷を見つけたのは良いんですが、霧が掛かって帰りの方向が分からなくなりまして。下手に動くより、霧が晴れるまでじっとしてました」

「賢明だね。まぁ、何より無事で良かった」

「ありがとうございます。それでは帰りましょうか?道はこっちで良いんですよね?」


普段の調子で洸は観月が出てきた繁みの方へ向かっていった。

その後ろを観月も追随していき、三人は無事に元の屋敷へと戻ることが出来た。


屋敷で待機していた遥菜は二人が出ていってからそう時間が経たないで、急に発生した霧に対して不安を覚え、三人が無事に帰参した事を喜んでくれた。


遥菜を落ち着かせると、また、天候が変わり、霧が発生しては帰りが困るので、波瑠を洸に背負わせたまま、観月を先頭に予定よりも早く森から出ることとなった。


流石に間を置かずに襲撃して来ることもなく、四人は無事、宿屋へと戻る事が出来た。

背負っていた波瑠を宿の彼女達の部屋で布団に寝かせると、洸も自分の部屋へと戻り、一息つく。


(さて…昼間にもう一度、襲撃を掛けて来ることは恐らくないけど、夜間は少し気を付けないとな)


部屋の椅子に腰掛けながら洸は思考を巡らせる。


(僕を警戒して慎重になるのを差し引いても、今夜にもう一度仕掛けて来る可能性は低くない)


双子の少女達は攫いに来る事を明言して去っていった。

恐らく東京へ戻る前にこの村に滞在する期間中、なんとしても波瑠を回収しようとするはずだ。

村に滞在するのは残り3日。地の利は敵側にあり、戦力と呼べる人間は洸しかいない以上、受け身にならざる得ない状況。

しかし、3日間凌ぎ、村を出れば今度は洸達が有利となり、敵もおいそれと手出しは出して来れなくなるだろう。

後、3日…波瑠を守り抜くのが洸達の勝利条件である。


(とはいえ、戦力に数えられるのが僕くらいだけど…"あの人"は果たして動いてくれるかな?)


洸の脳裏には間近で一人、戦力とできそうな人間に心当たりがあった。

だが、その人物は何故か自分の力を隠したまま、波瑠を見守るに留めている。

普段は過保護の部類に入るのに、今回の誘拐未遂に置いて動きがなかった事が洸には解せなかった。


(正体を明かしてない?いや……一番付き合いが古いんだから、夜谷が知っていても不思議じゃない。でも、彼女にそんな素振りも気配もないからに一切知らないのか?)


もし、波瑠が少しでも関与しているなら今日の様に連れ去られる事などあり得ない。

少なくとも居場所が知れる様な手段は持っているはずだ。

それが無いということは…


(やはり…彼女は何も知らないか…)


今日襲ってきた三人。

明らかに表社会で生きている類の輩ではない。

夜谷自身は誘拐される理由を本当に知らないのだろう。


(まぁ、一先ず、今夜の安全確保だな)


宿には少なからず洸達以外の客も居る。

相手側に幻術を扱う術者が居る事を鑑みるに、術で洗脳され手駒になって襲いかかってくる可能性はなくも無い。

最低…波瑠の部屋には今のうち防護は構築しておかなければならない。

やるなら早い方が良いと、洸は容態を見にいくという建前に休憩を終え、足早に波瑠の眠る部屋へと向かう。

案の定、部屋に迎え入れてくれたのは遥菜で波瑠はまだ起きてはいなかった。

ずっと側で付き添うのも疲れるだろうから交代で様子を見ようと提案し、遥菜を休憩の名目で部屋から退出させ、代わりに洸が波瑠の側に付く。


「さっさと済ませるか…『πΛμΣπκサングリス』」


この世界に存在しない"言語"を発し、言葉にした瞬間。

不可視の膜状のモノが波瑠の部屋を象るように覆っていく。

森に張られた簡易的な防御結界。

だが、通常の結界強度は遥かに高められ、容易く破るのは困難な代物。


ΑΛκμα∀θΣτβΕ∪Μ悪意には敵意が反る

ςκφτοスクルト

ΖτοαθμΣストリーマ

ΑθτΑγςκアスタリスク


次いでに破られた時の対策と罠を仕込む。

今までこれほど"魔法"を多様に発動したことは無い。

関わるのは大抵、軽い霊障(ポルターガイスト現象等)か、悪霊化した霊を鎮める程度だったので、久しぶり楽しいと洸はやりがいを感じる。

やるべき事を終えると手持ち無沙汰となり、取り敢えず交代が誰か来るまで波瑠の様子を見守り続けた。


「ん……」


そうして暫く波瑠の寝顔を眺めていると、瞼が僅かに動き、閉じた唇の奥から声が洩れた。

少し覗き込み、波瑠の顔色を伺うと閉じていた瞼が開かれた。まだ微睡んでいるような寝ぼけた調子の眼が顔色を伺っていた洸の顔を捉える。


「…皆縞…くん?」

「あぁ、やっと起きたか。どうだ?具合は?」

「…え……私…」


意識がぼやけた様子で、洸の質問に答えずに困惑したように波瑠が周りを見回していく。


「屋敷から離れた大樹の根元で倒れてたんだよ。具合が悪いなら悪いって言えよ。居なくなって皆、探したんだぞ?」

「え?え?」


洸から告げられた事に波瑠は現状と自身の記憶の齟齬に混乱する。

あの大樹まで誘導するのに精神操作系の術を受けたからだろう。それくらいは想定の範囲内であったため、洸は波瑠の気分を落ち着かせる柔らかな口調で声掛けをしつつ、少し気分が良くなるよう、彼女の額に手を当てながら魔法を掛けてやった。


「見た所、顔色は良いし体調も良さそうだな。起きたこと弥生さん伝えてくるから大人しくな?」


と言って洸は立ち上がり、波瑠に背中を向けて部屋を後にする。

まだ頭の中が状況を飲み込めず混乱していたが波瑠は洸の言いつけを守り、布団で横になったまま、その後ろ姿を見送った。

部屋を出ると、洸は真っ直ぐ旅館のエントランスに向かうとソファーで休む観月と遥菜を見つけた。


「弥生さん、先輩」

「皆縞?どうしたんだい?波瑠の見張りは?」

「夜谷が目を覚ましたので二人を呼びに来たんです」

「っ!?そうかい…良かった。今は部屋かい?」

「はい。そのまま寝てるように言いましたから。顔を見てきたらどうですか?」


洸が促すと、観月が「そうする」と言ってソファーから立ち上がって波瑠の部屋へ向かっていこうとする。

遥菜もやはり付き合いの長い後輩が心配だったようで観月に追随していった。 

二人が波瑠の部屋へ行くと入れ替わるようにして洸はソファーへと腰を下ろした。

朝からの掃除に加えて、波瑠の一時失踪における正体不明の術者達との戦闘、それからの部屋を防備するための魔法行使で洸は久しくなかった疲労を感じていた。

結界と罠を張り巡らせてあるし、二人が様子を見ている間は何事も起こらないだろうと、洸はソファーに背を預けて暫し仮眠を取ろうと瞼を閉じた。




洸から報告を受け、観月と遥菜は目を覚ました波瑠の元へ向かっていった。

部屋の前に辿り着き、先頭にいた観月は扉を開けようとドアノブへ手を伸ばすが……何かに気づき、戸惑いの表情を浮かべて指先がノブに触れるか触れない所で躊躇うように停止した。


「どうしたんですか?」

「あ、いや……何でもない」 


遥菜が不思議そうに尋ねると、観月は首を横に振りながらドアノブを回して部屋へ入っていった。

波瑠の部屋から感じる違和感を観月だけが察したようで、遥菜は特に何も感じていないように躊躇なく部屋へ足を踏み入れていく。

遥菜には霊感がない故に、波瑠の部屋に施された堅牢な結界の存在に気付けない。


しかし……観月だけは、その異常を認識していた。


(なんだい……こりゃ……)


視る"力"と知識を持つ者のみ、波瑠の部屋に起こっている事象を理解できた。

外と内、扉一枚を境界とし、全く異なる空気が流れていた。


(こんな結界モノ見たのは…久方ぶりだね)


今、波瑠の部屋に張り巡る結界は規模こそ小さいが、確かな強度を持っていると感じた。


(一体、誰が……なんて考えられるのは"一人"しかいないけど)


さっきまで部屋に居たのは布団に横たわる娘の同級生だけ。

男と二人にして何か起きないかと普通は不安になる所だろうが、彼の少年がそんな獣で無いことは短くない付き合いで承知しているので問題視はしなかった。

だが、彼は何もしなかった訳ではないことを観月は感じ取った。


(皆縞……こちら側の人間の感じはしなかったんだけどねぇ)


観月が洸と初めて会ったのは民族学部の部室だった。

部のOGであり、波瑠も入部すると聞いてからは暇を見つけ、良く顔を出すようにしていた。

そんなある日、偶々顔を出しに来た時、遥菜が無理矢理連れてきて強制入部させたのが洸であった。


別に変わった所はないごく平凡な少年。

押しの強い変人な上級生に巻き込まれた哀れな後輩。

観月の洸に対する第一印象はそれであった。

会う際に何度か話すと中学生にしては考え方は大人びていて、しっかりしており、他の男子中学生とは違った雰囲気を帯びている様に見受けられたが、観月にとってはそれは逆に喜ばしい事で、波瑠の異性の友人として申し分なかった。


(少し話をした方が良さそうだね)


日中の遭難の件も含め、観月は到着してからきな臭い空気を感じ続けていた。

尤も波瑠がこの土地に足を踏み入れれば、何か起こるのは確定事項に近かったのだが、それに後輩達が巻き込まれたのは計算外だ。

手を打たなければならない。

それに…


「波瑠、具合はどうだい?」

「うん…ちょっと怠いくらいで何ともないわ」


目の前で大丈夫だと微笑む少女が悲しまぬ為にも手は尽くさねばならない。

既に巻き込んだ可能性が濃厚で、洸には話しておく必要はあるだろう。

本来なら観月だけで|決着《けり》を付けたかったが、どうやら自分の知らない所で状況が複雑になっているらしく、背に腹は代えられない。


手が足らない現状で観月には困難な結界を気配を気取られずに張る事が出来る洸に少しばかり手を貸して貰えるように交渉しようと観月は心に決めたのだった。



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